12.虹色の弾丸とは真逆の

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12.虹色の弾丸とは真逆の

 ひとりになった郁人。スポーツドリンクのペットボトルと、塾の教材の入ったバッグがやけに重く感じる。そんな重さを感じながら、自分が恥ずかしく思えてきた。  ブラックコーヒーを飲める自分に憧れたり、ブラックコーヒーを平気で飲める自分を演じてみたり。それらがみんな、星也の前ではひどく子どもっぽい振る舞いのようにしか思えなかったから。  郁人は深いため息をつき、塾帰りの夜空を見上げる。ブラックコーヒーのように真っ暗な夜空を。  自分はなにも知らなかった。星也の抱える闇のような思いなんて。星也はきっと自分なんかには想像もつかないほどの痛みや苦しみを味わっているのだろう。  それはきっと甘い果汁たっぷりの虹色の弾丸とは真逆の黒い弾丸を撃ち込まれているみたいなものだ。容赦ない苦しみと痛みに思わず顔を歪めてしまう黒い弾丸を同じクラスの生徒から、そして同じ学校の教師から何度も何度も撃ち込まれた星也。  そう思うと、ひどく苦い思いが郁人の胸にやってきた。それはブラックコーヒーよりも苦い味だった。 (おわり)
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