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02.ただ一分一秒でも早く眠りたい
そのままコンビニを出た二人。今度の模試の対策を話しながら、郁人は砂糖もミルクも入っていないブラックコーヒーに口をつける。
!?
とんでもない苦さがたちまち口の中に広がる。風邪を引いたときに母さんが買ってきた漢方薬みたいな苦さ。母さんは苦いから効くと言ってたけど、この苦いコーヒーはなんに効くんだ!?
それでも郁人は星也の手前、冷静さを装ってなんとかひと口分のコーヒーをむりやり飲み込む。
「今度の模試、特に英語は中学の折り返しで範囲が広いからさ、やっぱり家でもドリルを解きまくるしかなさそうだよな」
星也はそう言ってブラックコーヒーに口をつける。特にその苦味に苦悶するわけでもなく、まるで水やお茶でも飲むように。
「俺は理科が苦手だから、この週末は集中して問題解くしかない」
郁人はそう言ったあとコーヒーに口をつける。自然さを装って。
それでもやっぱり我慢できない苦さが口の中に広がる。思わずこの場でコーヒーをみんな吐き出してしまいたいくらいの。けど、郁人は平静さを装うしかない。
「そうだよね。じゃあ、僕はこっちだから」
星也は曲がり角のところで郁人にそう告げ、自分の家の方へと歩いて行った。とても苦くて飲めそうもないアイスコーヒーを手に、郁人はひとりため息をついて、自分の家の方へと歩き始める。
家に戻った郁人は、氷のすっかり溶けたアイスコーヒーに砂糖を入れ、そして冷蔵庫の牛乳をカップのふちギリギリまで注いだ。敗北感のような気分とともに。
その上、その夜の郁人はなかなか寝つけなかった。明らかにカフェインのせいだった。漢方薬は風邪に効くかもしれないけれど、ブラックコーヒーはいつまでも眠れずに、ただ一分一秒でも早く眠りたいという焦りを郁人もたらしただけだった。
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