04.甘い果汁たっぷりの虹色の弾丸

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04.甘い果汁たっぷりの虹色の弾丸

 それから数日が過ぎたある日の放課後。  郁人のクラスはやっぱり適当に合唱コンクールの練習を終わらせ、それぞれの生徒は部活動に向かい、そして帰宅する。郁人は自分の教室から出て隣の教室のそばを通るとき、いつもと同じく武藤佐保の姿を廊下と教室を仕切る窓ガラス越しに探している。  厳しい視線で生徒たちの歌う様子を観察している佐保の姿が郁人の目に飛び込んできた瞬間、胸を締めつけられるような感覚がやってきた。それは果汁たっぷりで甘さもたっぷり含んでいるような果物のような甘い感覚。甘い果汁たっぷりの虹色の弾丸で胸を撃ち抜かれた、みたいな感覚。  けど、この感覚は郁人だけの秘密。それに郁人が佐保のことを好きだなんて気持ちも、佐保だってたぶん知らない。  郁人は今日もまた平静を装ったまま、佐保のいる教室のそばを歩いて行くばかりだった。あとは塾で顔を合わせることだけが郁人の楽しみ。顔を合わせても、簡単な会話をいくつか交わして、それで終わりだけど。模試どうだった? とか、課題大変だよね、だとか。  だから、せめて自分のブラックコーヒーが飲める姿を佐保が目にしてくれたら。そうすれば、少しは佐保に近づけるかもしれない。たぶん。
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