6人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
05.チャレンジしただけで前進
その日の夕方、家に帰った郁人はさっそくコンビニに出かける。もう一度、ブラックコーヒーにチャレンジしようと思って。
考えてみれば、このあいだ塾の帰りに飲んだのは、きっとたまたま苦いコーヒーに当たっただけかもしれないし、じっくり味わえば本当は美味しかったかもしれない。
郁人はコンビニに向かう道のりで、何度も自分にそう言い聞かせる。それにこのあいだのコーヒーは生まれて初めてのブラックだったから、きっと舌がびっくりしただけなんだよ。
自分に催眠術をかける人みたいにそう繰り返しながら、たどり着いたコンビニで郁人はコーヒーの透明なカップを買う。今度は念の為にコーヒーマシンのそばに置いてあるミルクと砂糖を取り、コンビニの外に出る。
お小遣いだって多いわけじゃないのに、飲めるかどうかわからないブラックコーヒーを買った。けど、ブラックコーヒーを普通に飲めるようになったとき、俺は佐保の憧れの男に近づけるはず……。
コンビニからの帰り道を歩く郁人は覚悟を決める。手にしたカップに入った液体は真っ黒。砂糖もミルクもないブラックコーヒー。郁人は深呼吸し、コーヒーをひと口飲んでみる。恐るおそる。
けれどやっぱりすぐに、すさまじい苦さが口いっぱいに広がった。
やっぱりミルクと砂糖を入れよう。せっかく買ったものだし。念のためにもらってきておいてよかった。
飲めなかったのはしょうがない。ブラックコーヒーにチャレンジしただけで前進だと思わなきゃ。それもみんな佐保に振り向いてもらうため……。
最初のコメントを投稿しよう!