05.チャレンジしただけで前進

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05.チャレンジしただけで前進

 その日の夕方、家に帰った郁人はさっそくコンビニに出かける。もう一度、ブラックコーヒーにチャレンジしようと思って。  考えてみれば、このあいだ塾の帰りに飲んだのは、きっとたまたま苦いコーヒーに当たっただけかもしれないし、じっくり味わえば本当は美味しかったかもしれない。  郁人はコンビニに向かう道のりで、何度も自分にそう言い聞かせる。それにこのあいだのコーヒーは生まれて初めてのブラックだったから、きっと舌がびっくりしただけなんだよ。  自分に催眠術をかける人みたいにそう繰り返しながら、たどり着いたコンビニで郁人はコーヒーの透明なカップを買う。今度は念の為にコーヒーマシンのそばに置いてあるミルクと砂糖を取り、コンビニの外に出る。  お小遣いだって多いわけじゃないのに、飲めるかどうかわからないブラックコーヒーを買った。けど、ブラックコーヒーを普通に飲めるようになったとき、俺は佐保の憧れの男に近づけるはず……。  コンビニからの帰り道を歩く郁人は覚悟を決める。手にしたカップに入った液体は真っ黒。砂糖もミルクもないブラックコーヒー。郁人は深呼吸し、コーヒーをひと口飲んでみる。恐るおそる。  けれどやっぱりすぐに、すさまじい苦さが口いっぱいに広がった。  やっぱりミルクと砂糖を入れよう。せっかく買ったものだし。念のためにもらってきておいてよかった。  飲めなかったのはしょうがない。ブラックコーヒーにチャレンジしただけで前進だと思わなきゃ。それもみんな佐保に振り向いてもらうため……。
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