06.お茶を飲むのと変わらないよね

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06.お茶を飲むのと変わらないよね

 郁人が道端でコーヒーの入った透明のカップの蓋に指をかけたとき、制服姿の武藤佐保が向こうから歩いてくるのが見えた。甘い果汁たっぷりの虹色の弾丸が、またまた郁人の胸を打ち抜く。 「武藤さん、いま帰り?」  郁人はできるかぎりの冷静さを装って佐保に声をかける。 「うん。合唱コンクールの練習が長引いちゃって」 「それだけがんばってるんだ、武藤さんのクラスは」 「特に私は合唱部の副部長だからね。それなのに私のクラスが下手な合唱だったら恥ずかしいじゃない」 「そうだよね、武藤さんは責任重大だね」  そう言った郁人は無意識にそのまま手にしていたコーヒーのストローに口をつけ、ひとくちコーヒーを吸い上げる。そのとき、やっぱり耐え難い苦味がたちまち口の中へと広がる。  しかも、武藤さんとこうして話せていることが嬉しすぎて、自分がブラックコーヒーを手にしているのをすっかり忘れていた。まだ砂糖もミルクも入れてなかったことも。  だから、今まで恐るおそるブラックコーヒーを飲んでいたときよりも多い量のコーヒーが口の中に入り込んできたことになる。お茶を飲むときみたいに。  それでも郁人はなんとか平静さを装う。ブラックコーヒーなんてお茶を飲むのと変わらないよね、みたいな表情で佐保に向き合う。 「俺、ブラックコーヒー好きなんだよ」
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