08.自分がいま感じている恥ずかしさ

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08.自分がいま感じている恥ずかしさ

 家に帰った郁人は、カップに残っていたブラックコーヒーを、キッチンのシンクにみんな流した。流れていくコーヒーの黒い液体を眺めながら、郁人はあることを考えてしまう。  佐保には俺がブラックコーヒーの苦味に耐えていることを見透かされていた。その苦味が苦手だということも。ってことは、俺が佐保のことを好きだってことも気づいてるかもしれない……。  だって佐保は塾でブラックコーヒーを飲める男の人がかっこいいって言ってた。その話を塾で耳にした俺がブラックコーヒーをさほの前で無理やり飲んだ……。  そんなことを考える郁人は何度もキッチンをぐるぐると歩きまわった。自分がいま感じている恥ずかしさから逃げるように。  けど、そんなことをしても恥ずかしさがなくなるわけじゃなかった。あれからブラックコーヒーなんて飲んでないのに、口の中にブラックコーヒーを飲んだときみたいな苦さが広がるばかりだった。
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