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09.目の中に小さな宇宙が存在していて
その次の塾の夜。郁人は佐保とはちょっと挨拶しただけで、会話までは交わさなかった。なんとなく気まずかったから、郁人の方で佐保を避けていたし、佐保は佐保で塾の友達との会話に忙しそうだったからだ。
「松原くん、途中まで一緒に帰らない?」
授業の終わり、星也が郁人を誘った。二人はこのあいだのコンビニに立ち寄る。星也はブラックコーヒー、そして郁人はペットボトルのスポーツドリンク。さすがにブラックコーヒーにはこりごりだ。
「伊達くんはよくブラックコーヒーなんて平気で飲めるね」
コンビニを出て、すぐにストローに口をつけた星也に郁人がたずねた。星也はコーヒーの苦味など感じていないみたいな顔。
「夜、眠れなくならない?」
郁人は続けて星也にたずねた。
「いいんだ。もともとあまり夜は寝られないし」
星也がこたえる。
「でもそれじゃ、次の日の学校がきつくない?」
郁人の質問に星也はしばらくなにかを考えるような表情を浮かべる。そしてまたブラックコーヒーのストローに口をつけ、黒い液体を吸い上げた。それから郁人の目を見つめる。郁人の目の中に小さな宇宙が存在していて、その宇宙で輝くひとつの星を探すように。
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