GFC

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 最寄り駅を降りてすぐの自販機でGFC缶をゴトンと鳴らす。明かりに群がり死んだ羽虫をみておもわず手が止まった。 「汚っ」  6限の公衆衛生の講義を思い返す。  講師が言った。 『手指には膨大な細菌がおり、君たちの肛門よりも実際は汚いんだ』  それならいっそ、虫の死骸など気にしても仕方がない。またいつもの癖でGFC缶の飲み口を指で拭った。  同時にスマホ画面が明滅した。  200件目のライン未読を確認して、私は一口で80mlのGFCを流し込んだ。ちなみにGFCとはグレープフルーツチューハイの略だ。  アルコールが体に染み渡る感覚だけが生を感じる瞬間だ。アパートまで50メートル、一階にあるゴミ箱までが勝負。そばに流れる松川が連日の雨で溢れそうで、その様を横目に一口。早とちりで土から出てきたセミがしゃあしゃあと鳴き、またさらに一口。一呼吸して残り100mlを一気に飲み干す。空き缶をゴミ箱に投入した。  枯れた老松越しに三日月がみえた。  切り貼りしたような毎日でも夜空にはいつも月はある。他人と距離を置いた日々だからこそ目に留まる美しさもある。  アパートについて冷凍していた半額のお弁当をレンジに入れた。  あと30秒だ。  目を瞑り、声に出してカウントする。ゼロのタイミングで目を開き見ると私の体内時計よりもタイマーが4秒も遅かった。 「くそ」  実家の母親に制されてきた汚い言葉が思わず出る。呆然としてタイマーの表示時間を眺めた。私が感じる時間よりも世界は正しく時間を刻んでいる。  またスマホが光った。  内容はわかっている。  なぜコンパをブッチしたのか。  くだらない責任を問う大学の友人の喘ぎだ。  せいぜいくだらない男に抱かれて喘いでろ。  食欲はどこかに消えてお弁当をそのままゴミ箱に捨てた。最近は食べ物を見ただけで吐き気がする。
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