ラブレター

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 家族葬って、こんなに大げさなものだっけ? 通夜の十倍以上の人が来ている気がする。  次から次へとやってくる人に頭を下げる。めんどくさい。  でも、心愛を横に置いたのは正解だ。いつもなら、注目を浴びるのは私だが、今日は心愛が注目の的だ。 「不動産王峰岸の最後に愛した女」って、週刊誌の表紙になったもんね。それにしても、記事が出る早さにはびっくりした。誰か、情報を売ったんだろう。  峰岸には子供がいない。親族もいない。遺産は私の独り占めだ。次に週刊誌の表紙を飾るのは私かもしれない。「不動産王峰岸の最後の妻」ぐらいのタイトルにしてもらいたい。  やってくる人の喪服を眺めてるうちに違いがわかるようになってきた。心愛の喪服をチラリと見る。  なるほど、これが深くない黒か。普段着の黒と違いがわからない。それに比べて、私の喪服の光沢の無さはびっくりするくらいだ。  ちょっと、今の気分に似ている。  出棺前の花入れになった。  峰岸の染めた髪は黒々として、艶がある。顔もエンバーミングで血色良く整えられ、今にも目を覚ましそうだ。  花以外に入れたいものがあればと言われていたので、私は封筒を入れた。 「それ、何ですか?」  心愛が尋ねてきた。こういう無神経なところが嫌だ。晒し者のつもりで横にいてもらったのに気にしていないらしい。 「ラブレター」  そう言うと、心愛はびっくりした顔になった。 「私はお詫びを書いた方がよかったでしょうか?」  私はうっすらと笑った。
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