あまぐも

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 夜から降っていた雨が上がり、彼女は胸をなでおろした。このところ雨続きで、汚れものが溜まっていたのだ。 「洗濯もの、外に干せるね」  お下がりの制服を身に着けた娘が、ひと足先に洗濯カゴを運んでくる。もともとしっかりした子ではあったけれど、この三年でさらに頼もしくなったようだ。 「後はやるよ。学校行きなさい」 「はあい」  洗濯カゴを受け取って共用の中庭に出る。狭小だが、まともな住宅に住めるようになったのはありがたいことだ。以前住んでいた場所は本当にひどかった。古くて、雨漏りもして。だがもう一度あのころに戻れると言われたら、きっと喜んで戻るだろうとも思う。  ようやく現れた太陽は、すでに大気中の水分を絞りはじめたようだった。今日は洗濯ものがよく乾きそうだ。林立する雑居ビルの隙間からは区切られた空がのぞく。あの子はどうしているだろう。ここにいない家族を想うとき、彼女はいつも空を見上げたくなった。  先ほどまで降っていた雨のせいで、あたりはあちこち水たまりができている。その一つを避けようとして、彼女は足もとに何かが光っているのを見つけた。カゴを片手に持ち直し、つまみ上げる。  銀色の、小さな玉だった。表面は細かい傷でくもり、へこみもある。耳もとで振ってみると、さらさらとかすかな音がした。何かの機械かもしれないが、すでに壊れてしまっているらしい。  こういうものを、ITゴミとして買い取ってくれる業者はあちこちにいる。だが少し考えて、彼女はそれを手もとに置いておくことにした。手のひらで転がしていると、なぜかとても心が休まる気がしたのだ。 「おかえり」  知らないうちにそんな言葉が口をついた。彼女は拾いものを胸ポケットにしまい込み、朝の支度に戻った。
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