あまぐも

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 コックピットから放り出されて、おれの戦闘機乗りとしての人生が終わった。セカンドライフは余命数分。キリモミするだけの命かよ。 『ポジションを取れ! 体を安定させろ!』  耳もとで、コ・パイロットのアラコが怒鳴る。 『ワタル、安定姿勢(アーチ)だ! 体を動かせ!』  まだ機能していたか……。ほっとすると同時に体が反応し、おれは空中で手足を伸ばした。空気抵抗が発生し、悪魔的きりきり舞いから緩やかな回転へ移行。落ちてることに変わりはないが。 「状況は?」 『今、スーツをスキャン中だ。だが……』  とたん、頭上で凄まじい音がして背中が熱くなる。おれの機が爆発したようだ。爆風を受け、空中をハズレ馬券みたいに吹っ飛ばされる。ヘルメット越しの視界は灰色の点滅になり、内臓が麺をこねるみたいに伸び縮みした。喉もとまでせり上がってきた胃液を飲み下し、おれは再び安定姿勢を取ろうと七転八倒する。今の高度は推定三万フィート。パイロットスーツを着ていなければ、とっくに死んでいたかもしれない。  スーツといえば。 「アラコ、聞こえるか。パラシュートは?」 『……だめだ。離脱時に破損した』 「そうか。まあ実はわかってた。バイザーに表示が出てるし」 『ワタル、すまない』 「いやいいって」 『残念だ。本当に』 「気にすんな」 『だが、私がついていながら……』 「だからいいって言ってんだろうがよおぉ! ぶっ壊すぞ、このポンコツAI野郎っ!」  ここが地上なら、おれはヘルメットをむしり取って左耳にはまったパチンコ玉――AIコ・パイロットの本体――を引き抜き気の済むまで踏みつけていたかもしれない。だが空中でそんな芸当は無理だ。それに実のところ、おれに本気でアラコを壊そうなんて気はなかった。特に今、自分が死ぬっていうこのときには。
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