あまぐも

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『まずい、ぞ、  デンジハが……』 カリカリ音がして、アラコの声が とぎれ あたりは暗く 湿っぽいまるで 濡れた毛布 が おれをくるむ そんな日がいつかあった。 屋根に当たる雨音がすごい。 眠れないおれの耳を 夜中 帰ってきた母さんが ふさいでくれた 手をあてて その温かい手のひらから シュワワワーという音が 聞こえていた と思う。 雨漏りのためすっかり濡れた 毛布は翌日干して乾かした。 昔は家が建っていた が 二回くらい燃えて今は空き地 そんな場所に みんな洗濯物を干す 特に雨の後の晴れた日は 夜の間に染み込んだ 水が鍋の湯気みたいになって 地面から立ち上る すごく暑い 雑草が伸びまくり 虫が飛びまわる中で おれは他の子と遊んだ。 おれの兄ちゃん国防軍に入るよ へえすげえ、 良かったね! お前はどうすんの 大きくなったら おれは 出稼ぎに行きたい アメリカか中国 中東もいいね XXも XXはもうないよ 爆弾で 全部吹き飛んだって、おじさんが言ってた。 夕方、家に帰る すっかり乾いても 重い 毛布を頭と肩で担ぎ 妹の手を握って 昼の仕事を終えた母さんが出迎えてくれる。 母さんおかえり おれは言った 帰って来たのは自分の方なのに 『……ル  ワ、タ、ル  聞こえるか!』
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