35人が本棚に入れています
本棚に追加
コックピットから放り出されて、おれの戦闘機乗りとしての人生が終わった。セカンドライフは余命数分。キリモミするだけの命かよ。
『ポジションを取れ! 体を安定させろ!』
耳もとで、コ・パイロットのアラコが怒鳴る。
『ワタル、安定姿勢だ! 体を動かせ!』
まだ機能していたか……。ほっとすると同時に体が反応し、おれは空中で手足を伸ばした。空気抵抗が発生し、悪魔的きりきり舞いから緩やかな回転へ移行。落ちてることに変わりはないが。
「状況は?」
『今、スーツをスキャン中だ。だが……』
とたん、頭上で凄まじい音がして背中が熱くなる。おれの機が爆発したようだ。爆風を受け、空中をハズレ馬券みたいに吹っ飛ばされる。ヘルメット越しの視界は灰色の点滅になり、内臓が麺をこねるみたいに伸び縮みした。喉もとまでせり上がってきた胃液を飲み下し、おれは再び安定姿勢を取ろうと七転八倒する。今の高度は推定三万フィート。パイロットスーツを着ていなければ、とっくに死んでいたかもしれない。
スーツといえば。
「アラコ、聞こえるか。パラシュートは?」
『……だめだ。離脱時に破損した』
「そうか。まあ実はわかってた。バイザーに表示が出てるし」
『ワタル、すまない』
「いやいいって」
『残念だ。本当に』
「気にすんな」
『だが、私がついていながら……』
「だからいいって言ってんだろうがよおぉ! ぶっ壊すぞ、このポンコツAI野郎っ!」
ここが地上なら、おれはヘルメットをむしり取って左耳にはまったパチンコ玉――AIコ・パイロットの本体――を引き抜き気の済むまで踏みつけていたかもしれない。だが空中でそんな芸当は無理だ。それに実のところ、おれに本気でアラコを壊そうなんて気はなかった。特に今、自分が死ぬっていうこのときには。
最初のコメントを投稿しよう!