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まばゆいほどの月の光に照らされて目が覚めた。
全身に薄くのしかかる重苦しさに息が漏れる。目だけを動かして自分の状態を確認してみると、俺の全身は土をかぶせられて横たえられているようだった。苦しくて当然だ。
手足はわずかも動かない。力がまるで入らないのだ。
視界の先には木々の枝。それに隠されてなお冴え冴えと注がれる月光が、俺を覆う土を照らしている。湿った土が光を受けて黒々と輝いた。
――お前が俺を埋めたのか。
脳裏に浮かぶ親友に問いかけた。
この場所には見覚えがある。これまで何度も訪れた山だ。それこそ幾度となく、お前のために。
お前が人を殺す度にここに死体を埋めていたから、俺はそれを何度も別の山に埋め直したものだった。海に沈めに行ったこともある。
お前はそれに気づいたと言っていたが、いったいいつからだったのだろう。ずっと俺に不信感を抱いていたのだろうか。
「雪夜……」
名前を口にしたつもりだけれど、実際には空気が漏れただけの音となった。
俺の腹には穴が開いているようだった。雪夜に刺されて空いた穴だと、ようやく思い出す。思い出すと同時に激しい痛みが襲ってきた。
止めどなく流れ続ける血は土に染み込み、命が流れ出してゆく。
全身にかぶせられた土はごく薄く、まるで薄い毛布をかけた程度の量でしかない。これで「埋めた」と思うのだから、雪夜はやはり愚かで浅はかだ。
いつもこんな風だから、俺が代わりに埋め直してやっていたのに。
(繰り返すんだなぁ、お前は)
それともこれも、あの時言っていたようにわざとなのか。
土深くに死体を落とすのが怖かったのだろうか。恐ろしい行いをした自分の罪を、埋めきってしまうことに耐えられなかったのか。
暴かれたかった、見つかってしまいたかったと、そう雪夜は願っていた。
(でも、はじめのうちは違っただろう?)
恐ろしくてどうすれば良いのかわからなくて混乱して、だから埋めるのにも失敗した。
雪夜は怖がりで、咄嗟の出来事に上手く対処できない心の弱さを持っていたから。
そんな臆病なお前を、俺は守りたかった。
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