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 寝過ごした。  学校帰りの電車で居眠りをしていたのだ。  乗り換えるはずの赤羽を過ぎてしまっていた。スマホで現在地を見る。荒川より北だ。  赤羽方面に戻る電車は十分後に来るが、トイレにも行きたかった。  跨線橋を渡り、改札横の洗面所に駆け込んだ。    少し吐いた。  吐き気が激しいだけで、たいしたものは出ない。赤茶けたものを便器にぶちまけても、吐き気はおさまらない。気持ちの問題だろう。よくあることだ。  ホームに戻る。  小さい駅だ。何か喉に入れたかったが、自販機が見当たらない。  改札を通った。  自販機でトニックウォーターを買い、しばらくベンチに腰掛けて休んだ。胸が圧迫されるような感覚。目を閉じると闇の中に、稲妻のようなものが何度も閃いて消える。過呼吸が起こらないように。集中してゆっくりと息を吐く。  やがて、吐き気が消えた。胸痛も頭痛も遠ざかっていく。  目を開いた。  汚れた大きなスニーカーが見えた。  自分のローファーではない。誰かが目の前に立っているのだ。  異臭。すえた汗の匂いと、それと絡み合う重く甘い香り。  顔を上げた。  なにか、黒っぽいイメージ。  認識できたのはそれだけだ。  次の瞬間、頭に激痛が来た。  いきなり殴られたのだと、それだけは理解した。          
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