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 母が暴発したのは学年順位を告げた時ではない。その時に安全装置のようなものが外れたのだろうとは思う。ただ、母の行動は予見できるようなものではない。  昨夜の十一時、俺が自室で机に向かっていたときだ。  イヤホンでスマホの音楽プレイヤーの曲を聞きながら、ラインに来たメッセージに返事をしていた。  だから、母が足音を忍ばせて階段を昇ってくるのに気づかなかったし、母がノックをせずに(母はいつもノックをしない)扉を開いた瞬間、俺はスマホを握っていた。  成績が下がったばかりなのに、勉強もせずにスマホをいじっている。  母の視点で見れば、当然そういう態度に映る。  振り向いた瞬間に頬を叩かれた。  こういうとき、母は手加減ができない。しないのではない。できないのだ。  耳がキンと鳴った。  これで片方の鼓膜が破れたことがある。  痛みにひるんだところに、もう一撃。  これで俺は椅子から転げ落ちた。  とっさに頭をかばった。  腕とか胸とか、いろんなところに打撃が来る。  猛獣の雄たけびのようなものを、母は発した。  言葉にも何にもなっていない。  度肝を抜かれた。思わず母の顔を見ようとしてしまった。  そして、母は俺の首を絞めたのだ。           
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