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  本郷がウェイトレスを呼び止め、何かを注文した。  俺はそれで我に返り、一時間以上過ぎていることに気づいた。  喋ったのか、俺は?  というか、口に出せたのか、母のことを。  本郷は無言で紙ナプキンの詰まった容器を俺のほうに押してよこした。 「とりあえず、そのみっともない顔をどうにかしな」  そう言われた。  自分が泣いていたことに初めて気づいた。  顔を拭いた。  やがてソフトクリームが来た。  本郷はウェイトレスに俺を指さしてみせた。  ソフトクリームを渡され、俺は途方に暮れた。 「食べなよ。きっと旨い」  単純な肉体的快感が救いになることもある。  そういう意味のことを言った。 「話しちゃいけないことだった。黙ってて欲しい」 「話す相手がいないよ。知ってるだろ」  俺はソフトクリームを舐めた。  なんとか牧場の牛乳を使用したなんとか。  甘かった。    俺にはあまり味覚がない。  普通の味覚があったら、あの母とは暮らせない。だから俺は自分で味覚を殺したのだ、きっと。  だが今は、甘いという味がわかった。  ああ、俺はまた泣く。  懸命にこらえようとしたが、耐え切れなかった。  俺は顔を隠し、息を殺しながら泣いた。         
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