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 里美は白地に花模様のはいった浴衣だ。 「どう?」  とポーズをとってみせる。 「相変わらず小さい」  と真顔で言う。 「なんだとぉ!」  隣の東条というのは、少し冷たい感じのほっそりとした少女だ。  あまり喋らない。俺を観察しているのだろうなと思う。  いいことだ。里美を大事に思っているのだろう。 「まあ、なかなか似合ってるよ」  そう付け足した。 「へへっ」  里美は頬を染めてわらう。  少し罪悪感をおぼえる。俺は、求められた言葉を返しているだけだ。  浴衣が似合っていると思うのも嘘ではないが、胸の中にはどんな感情もない。結局、里美には何もしてやれない。  竹中が東条にしきりに話しかける。  個人情報を深堀するような質問を、東条は軽く受け流している。  だが、内心は困っているだろう。  それはやめておけ、というサインを俺は竹中に送っているのだが、竹中なので気づかない。  肩を引っ張って物理的にひきはがした。  東条を見る。苦笑いのようなものを、東条は顔に浮かべて見せた。  竹中をあやしながら、しだいに靴音が増えていく雑踏を歩いた。  提灯。  スピーカーから流れる音楽。  祭りの気配がたかまっていく。  やがて鳥居が見えた。                
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