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 俺にとっては何事もない夏休みだった。  俺だけでなくうちのクラスは皆、受験勉強に専念していたはずだ。有名高校に進学することを、学校からも期待されている。  二学期になって、学校内は文化祭の準備で忙しい。中学最後の文化祭に、気合を入れている三年生も多かったが、成績優秀な者を集めたことになっているうちのクラスは、申し訳程度の展示をやってお茶を濁すことになった。    なんとなくの流れで、文化祭実行委員になっていた。  特にやりたかったわけではない。やりたくないと思っていたわけでもない。  それが決まらないといつまでもクラス会議が続くから、なんとなく手を挙げた。 >また馬鹿な空気読み  直後にそういうチャットが本郷から来た。  本郷が嫌がるのは、俺のこういうところなのだろう。 >損することばかりしてる。自覚しな  そうとばかりは言えない。俺は珍しく自己主張をしていた。  意見をとりまとめたり、会議に出たりはするが、具体的な作業にはタッチしない。それは誰かにやってもらう。  はっきりとそう言った。 「じゃあ、それは私がやるよ」  そう言って手を挙げたのは里美だ。  彼女が相手ならやりやすい。それは、素直にありがたかった。  そうして、俺たちは何事もない二学期を過ごしていくはずだった。  だが、学校全体を巻き込む事件が、やがて起こる。  それは厳しい戦いの始まりだった。            
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