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 パシュトゥン民族学校に設立助成金を!  パシュトゥン人にも平等な教育の権利を!  差別反対!  在日米軍は出ていけ!    よく意味のわからないそんなプラカードをかかげた連中が集まっていた。  人数は五十人から百人の間だろう(ニュースでは六百人と報道していたが)、パシュトゥン人に見えない顔もずいぶん混ざっている。  俺がそういうことを観察できたのは、わざわざ見にいったからではない。  デモ隊のほうから来たのだ。  うちの学校の目の前に。  シュプレヒコールって、なぜかドイツ語で呼ぶそうだが、要するにスローガンを叫ぶ。拡声器で。  パシュトゥンの民族楽器だか何だか、小さなドラムも叩いている。  授業中にだ。    リアルタイムでニュース映像が流れている。 「追い詰められた難民たちの最後の抵抗」とテロップがついている。  いつもと変わらないたわごとだが、近場でやられると授業にならない。  教室の窓を閉め切っても騒音は突き抜けて来るし、そうすると今度はシャレにならないほどに暑い。  絶え間なく小さな火花がはじけるような、不穏な気配が学校全体に漂っている。  教師たちが数人で抗議に行ったが、怒号と罵声を浴びせられるだけで、話し合いにもならなかったらしい。  そういう状況が三日続いて、学校側は警察を呼んだ。  無許可なデモだから解散を要求できた。  だが、パトカーが近づいてくれば、デモ隊はさっと身を隠してしまう。  そうして数時間後か翌日、警察がいなくなったころにまた戻ってくるのだ。  教師たちも生徒たちも、苛立っていた。  小さな火花が、爆発につながるのは避けがたいことに思えた。  本郷六華は日本国籍を持っている。日本で生まれ、半分日本の血を引いている。  だが、見かけは典型的なパシュトゥン人で、誰からもパシュトゥン人として認識されていた。  この学校でただ一人の。    次に何が起こるかは、誰にだって予想できた。        
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