3/6
前へ
/40ページ
次へ
 漠然とした怒りは対象を求める。  対象を得た時、怒りは暴力となる。  そして学校は、暴力を収束させるレンズとして働く。  うちのクラスにいじめはない。少なくとも、俺の目に入るところでは何も起こらない。  言うならば、俺はそういう世界から丁寧に除外されている。  だが、俺は確信していた。  本郷六華は何かされている。   「最近調子いいな」  ある夜の通話で、本郷はそう言った。 「え、なに?」 「真っ青な顔してうずくまったり、ゲーゲー吐いたりしてないだろ」 「そういえばそうだな」 「まあ、いいことだ」 「俺に何か話したいことはないか」 「特にないぞ」 「腐れ縁だ、相談ぐらいいつでも乗る」 「私は人に相談なんかしないよ」 「そうかもしれないが、困ってることとかないのか?」 「だから何もないって」    そんなやりとりを何度か繰り返して、俺はやがて知った。  里美が、ある動画を見るようにと、URLとパスワードを送ってきたのだ。  鍵がないと中を見れない、マイナーな動画サイトだった。  うちの学校で撮影されたものなのはすぐにわかった。  廊下を背の高い女子生徒が廊下を歩いてくる。  カメラの背後で、顔のわからない奴らがくすくすと笑っている。  男子生徒の背中がカメラの間近に現れ、こちらを向かないまま足早に歩きだし、やがて走りだした。  向こうから来る女子生徒――本郷は気づく。逃げるには遅いことを察したかのように動かない。  すれちがいざまに腹を殴り、男は走り抜けた。  うずくまる本郷の姿に焦点をあて、彼女が立ち上がるまえに動画は終わった。  呆れるほどに単純な、直接的暴力。   だが、よく考えられている。  俺は、里美に電話をかけた。                  
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加