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 教師たちは本郷の置かれた状況について何も知らないのだろうか。俺が今まで気づかなかったぐらいだから、本当に知らないかもしれない。  話せば好転するかもしれないが、熱心に動いてくれそうな顔が、俺には思い浮かばなかった。  本郷は大人たちにとっても異物だ。  わかる。そういう扱いを彼女はされている。  事件にならないまま卒業してもらって、二度と難民の子が入学しないことを祈る、そういうスタンスではないだろうか。  本郷六華自身は難民ではないし、戸籍上も完全に日本人なのだが。  うちのクラスは、全員がグループラインを共有している。だが、そこでは本当に大事なことは語られない。どこでもそうだと思う。  「裏」と呼ばれる隠し部屋があって、本音はそこで語られているはずだ。  はずだ、というのは、俺は裏には招待されていないからだ。  俺はそういうものにかかわることを拒んできたし、誰も、無理に仲間にいれようとはしなかった。  今になって、俺はそれを悔やんだ。  あるいは見え透いていたのかもしれない。  俺が、建前だけの薄っぺらな人間で、語るべき本音を何一つ持っていないことを。 ――このクラスにいじめや暴力があるなら、俺はあらゆる手段でそれを阻止する。最後まで被害者の味方をする。    「表」で、そう宣言する。  そう本郷に伝えたら、秒で返信が来た。 >首を突っ込むな 馬鹿  明瞭なメッセージだったが、本郷の真意はわからない。  直接顔を見て話し合う必要がある。  そう思った。  だから俺は動かなかった。  そして俺が動くより早く、本郷自身が動いた。          
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