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 それから、デモ隊が学校に現れることはなかった。  一か月と少しがすぎ、文化祭が行われ、さらに月日が過ぎた。  本郷六華は学校から消えた。  あの日以来、二度と登校することはなかった。  そして彼女は、俺からも連絡を絶った。  通話にもラインにも、答えることはなくなった。  クラス担任に尋ねてみると、彼女も困惑しているという。本人とも親とも連絡がとれないのだと。  本当かどうかはわからない。本郷の父はパシュトゥン人の大物だ。ヤクザのようなもので、なるべくかかわりたくはないだろう。それに学校としても、いなくなってくれたほうがありがたいかもしれないのだ。  クラスで、彼女について話されることはなかった。悪口を言う者も、心配する人もいなかった。  少なくとも俺に見える範囲では、皆、本郷六華など最初から存在しなかったかのようにふるまっていた。  夏の名残が大気から消え、やがて肌寒さで目覚めるようになった。  皆、部活を引退し、受験に向けてギアを上げていく時期になった。  俺もそうだ。  ときどき胸痛や頭痛にもだえ苦しんだり、嘔吐したりしながら、母から間接的な暴力や、直接的な暴行を受けながら、俺は毎日机に向かった。  もしかしたらうちの母は、狂人なのかもしれないと思いながら。  そしてある夜、午後11時。俺は気がつくのだ。  北の空が、夜明けのように赤く燃えていることに。          
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