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翌週。池袋東口。
駅前から少し離れた、昼間でもどこか薄暗い町。
そのコンビニのかげに、うずくまっている女がいた。
半ば焼け焦げたぼろぼろの服を着ていたが、そこからのぞく肢体は若者のものだ。
「なにしてるんだ、おまえ」
本郷六華だった。
あの火災の夜以来胸の中にあった不安と緊張が、一気に溶けていくのを俺は感じた。泣き出してしまいたいような衝動を、押し殺し、隠した。
だが俺は自覚した。
自分は、ずっと彼女を探していたのだと。
ぼんやりした、目の焦点が合っていないような顔で、本郷は俺を見た。
言葉はない。ただ、無言で俺を見上げている。
彼女の隣に座った。
今買ったばかりの緑茶のペットボトルを、手を掴んで握らせた。
しばらくそれを見つめていた本郷はやがて静かに地面に置いた。
ふらりと立ち上がった。
右足が裸足なことにその時になって気づいた。
パシュトゥン語なのか、全く聞き取れないことを小さくつぶやいて、彼女はそこを去ろうとした。
俺は手首をつかんだ。
「なんか言えよ」
「お前に用はないよ」
「俺にはあるんだよ。おまえにはたくさん借りがある」
「そんなものないよ」
弱々しい力で、彼女は俺の手を振り払おうとする。俺は放さなかった。
「おまえに借りをかかえたままこれから生きてけっていうのか? 本郷はどうなったんだろうって、ずっと思い出しながら生きてけっていうのか?」
「めんどくせえ……」
そう小さくつぶやいて、彼女は泣きだしたのだった。
涙を指でつまみとろうとするような、ひどく不器用な泣き方だった。
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