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 翌日、午前中に病院に行った。  頭の怪我の診断と治療。特に重大な怪我ではないようだった。  母に連絡し、このまま学校に行くと告げる。学校が好きなわけではなかったが、家に帰るよりはましだった。  少し時間をつぶし、二限目の後の休み時間に教室に入る。  いつもどおり、というわけにはいかなかった。  頭にぐるぐると包帯を巻かれている。皆が集まってきた。何があったのか知りたがった。 「寝ぼけて、階段から転げ落ちた」  適当な嘘をついた。 「壮絶なアホだな」 「いや、こいつはもうちょっと頭悪くなってくれないと困る」 「でも、それ本当? 何か言いたくないことじゃないの?」 「言いたくないことだと思うなら追及するなよ」 「そうだけど」 「どれくらいの怪我なの? 余命半年とかになった?」 「そういうのは美少女じゃないと。とうぶん死なないよ」 「おまえ、ふっと消えそうな雰囲気あるけどな」 「やめてよ。あんたが先に消える?」 「おまえらも気をつけろ、夜中に目が醒めたら、めんどくさがらずにまず電気をつけろ」 「狙ってもそんな怪我にはならねえよ」  軽いトーンの、なんでもない会話。なんでもない空気を保全するための作業。  俺たちが集まっている「なんでもない」という小島は案外狭くて、いつも足元は荒波に洗われている。  窓際の席に一人とどまっている本郷を見た。  目が合った。彼女はあわてて目をそらした。 ――大丈夫だ。俺はわかっている。  そう伝えたかったが、この場で話しかけることはできない。それは「なんでもない」を壊す。   俺は、昼休みを待った。     
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