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7
本郷にそれ以上話すべきことがあったかどうか、わからない。彼女はうつむき、涙を懸命にこらえているように見えた。
こいつは、俺に思わせようとしているよりも、ずっと繊細で優しい。
すでに分かっていたことだが、あらためて実感した。
母が立ち上がった。
そして、信じられないことをした。
本郷の手をとり、こう言ったのだ。
「苦しかったのね。でも、もう大丈夫だよ」と。
一瞬、熱を持った真っ黒いどろどろとしたものが俺の中で沸き上がった。
それが何か見極めるまえに、あとかたもなく消えた。
残ったのは、いつも見慣れた絶望だけだ。
母に手を握られて泣き出す本郷を、俺は冷静に見つめていた。
何も感じなかった。
いつものように、何も感じなかった。
感情は敵だ。
感じてしまえば、それはきっと痛みになる。
だから、俺は何も感じない。
何も感じない。
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