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こんな人だったかな、と思った。
父だ。
イメージしていたよりも小さい。背が低く、小太りで、申し訳なさそうな笑顔を浮かべている。
懐かしさはなかった。
お互いの当惑を反射しあうように、俺と父は不器用に向かい合っていた。
「とりあえず、乗ってくれ。六華さん、もちろんあなたも」
やがて眼をそらし、父が言った。
沙耶が助手席に座り、俺と六華が後部座席に並んだ。
父の家がある郊外に向かって、ダイハツの軽自動車が走る。
「やっぱり親子だね、ちょっと似てる」
六華が耳元でささやく。
俺は答えず、軽く肘で小突いた。
そういう様子を、沙耶はバックミラー越しに観察してにやにやしている。
沙耶が六華に他愛のない質問をし、六華が答える。
父も俺も黙っている。二人の会話を聞いているわけでもない。ただ、時間をもてあましている。
「おかあさん、ステキな人だと思ったよ、私は」
六華のそんな声が不意に耳に入り込んだ。
「『私は良い母親じゃないから』って、自分で言ってたもの」
初耳だった。
「この人が(そう言って六華は俺を指した)、体調悪いこともわかってて、ちゃんと気にしてた。最近よくなったって、私のおかげだって言ってくれて……だから、いい人だよ」
沙耶に向かって話しているように見えるが、心なしか声を張っている。父と俺に聞かせたいのだろう。
話の内容は、六華の創作かもしれなかったが。
やがて車は国道から離れ、薄暗い住宅街に入っていき、やがて止まった。
父が何故あの家に俺を置いていったのか、結局聞けないままだった。
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