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 期末試験の順位が発表された。  順位表はオンラインでも見られるが、なぜかエクセルを使っていて、とても見づらい。掲示板を見に行ったほうが手間がかからなかった。  昼休みだった。  購買で昼食を買う人の流れと混じって、掲示板前は込み合っていた。    総合順位10位。  それが今回の結果だった。  だいぶ下がった。母の顔が脳裏にちらついた。  二つ上に本郷六華の名がある。今まであまり意識していなかったが、その位置に彼女がいることはあまりなかった気がする。  人波が揺れた。  当の本郷が通り過ぎ、一瞬目が合った。  身長差の関係で当然そうなるのだが、見下された気がした。  まあいい。母にどう言い訳するかはこの場で考えなくてもいいことだ。立ち去ろうとして体ごと振り向くのと、何かがみぞおちにあたるのが同時だった。 「暗い。何も見えぬ」  くぐもった声がそう言った。  見下ろすと、里美響の頭がある。これがみぞおちにぶつかったらしい。 「ごめん。大丈夫か」  里美の肩に手をかけ、距離をとるように一歩下がった。  触れたのがまずかったのか、里美は「あ」とか「わ」とか言った後、 「ごめんなさい」  と小さな声で言った。 「里美は26位だ」  そう教えた。里美は礼を言ったあと、つま先立ちで掲示板を見上げ、 「あ、牟田君久しぶりに二桁じゃん」  と言った。 「うん。ちょっと困ってる」 「すごいなー。世界が違うなあ」 「いや、そういうけど、里美も都立狙えるだろ」 「牟田君は都立北園でしょ。私は北園は無理だよ」  歩きながら話した。  里美に触れないように気を付けながら、人混みからかばうのは神経を使った。    里美には、二年のときに一度告白されている。  断った。  里美が嫌いなわけでも興味がないわけでもない。  自分に恋愛ができるとは思っていなかった。そういう理由だ。  しばらくの間は距離があったが、今はそれ以前よりも近い関係だ。  彼女が心の中でどう感じているかは、俺にはわかりようのないことだったが。              
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