雨上がりの貴女

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雨上がりの貴女

 土砂降りの中を傘をさして帰っていた。    近所の公園に差し掛かると急に天から日が降り注ぎ、さっきまで叩きつけられていた雫は降ることを忘れたようだ。  地面にはキラキラと雫が光を放ち、水溜まりが眩い光を反射させている。  眩しさに思わず瞼を閉じ、再び開くと虹色の傘をさした水色のワンピースの女性が立っていた。背中からはスタイルがいいということしか分からない。  見惚れているとこちらを振り返り微笑んだ。胸がキュゥと締め付けられ、僕の心は虜になった。話しかけようとすると公園の前を車が通り過ぎ、水溜まりを弾き飛ばす。  女性は蜃気楼のように消えていった。  何か夢でも見たのかと思い、家へと帰った。しかし、いつまでもあの女性を忘れることが出来ない。魅力的な笑顔だった。  次の雨の日、同じ場所へ行くと雨が上がり、またあの女性が現れた。声をかけても答えることなくずっと笑顔でこちらを見つめている。  あのジメジメして嫌だった雨が嘘のように待ち遠しくなった。雨が降り出すとその公園で雨上がりを待つようになった。  我慢できなくなったある日の雨上がり、その女性の元へと近づき、手を伸ばした。女性も手を伸ばし手が重なる。  車が通り、水溜まりを弾き飛ばすと視界に移る二人の手は、蜃気楼のように消え去った。
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