恋した相手は、

22/31
前へ
/209ページ
次へ
柔らかくて温かい感覚に心臓が大きく跳ね上がる。 「……そういう顔、他の男の前で見せないよーに」 そういう顔ってどんな顔?と眉を寄せると、海くんが吹き出した。 「まあ、でもふゆが鈍感でよかった面もあるけどねー」 「それどういう意味?」 「かわいいってことー」 さらりと言われてしまい、恥ずかしさのあまり俯きたくなる。そんなタイミングで駐輪場へつき、海くんは私にヘルメットを手渡してくる。 海くんのバイクの後ろに乗ると、ぎゅっと抱きつく。こんなに海くんの背中って大きかったっけ。 「……ふゆー、俺のこと試してる?」 「試す?」 「あーもー……そのまま掴まってて」 ゆるやかな風が吹く夜道を海くんのバイクで走っていく。風が心地良くて、熱い頬が冷まされる。 〝冬菜ってもう海くんのこと好きだよね?〟 〝大丈夫だよ。きっとすぐにわかるはずだから〟 海くんの背中に抱きついて優しい体温を感じながら、美歩の言葉が心にすっと落ちてくる。 そっか。私、もう海くんのことを好きになっていたんだ。 「海くん、好き」 呟いた私の声は、バイクの音に掻き消されて海くんには届かなかった。
/209ページ

最初のコメントを投稿しよう!

152人が本棚に入れています
本棚に追加