黒い私

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彼との出逢いは2年ほど前。 友人との飲み会で知り合い、後日彼から個人的に飲みに誘われた。 恋愛と半年ほど疎遠だったこともあり、私はその誘いに何の迷いもなく乗ってしまった。 当然飲みだけで終わるはずもなく 私は彼の家に連れて行かれた。 1Kの部屋は質素だった。 最低限の家具と飲みかけのお酒が並んだテーブル そして 部屋の3分の1を閉めるベッド。 「一人暮らしじゃないの?」 「ああ。俺、大きいベッドじゃないと寝れないんだよね。」 分かりきった嘘を言って、彼はセミダブルのベッドに腰をかける。 「隣、来る?」 あとは今と同じ。 彼の執拗な愛撫に、お酒がさらに回ってしまった私は 早々に抵抗するフリを辞めてしまった。 一度目が終わり、シャワーを浴びようとした私に彼がついて来る。 「シャワーくらい一人で浴びせてよ。」 「なんで?」 「なんでって…恥ずかしいじゃない。まだ知り合ってそこまで経ってないし。」 「でも、さっきまでもっと恥ずかしいことしてたよ?」 「それとこれとは違うの。シャワーだと電気ついてるし…」 「電気つけて」 "わかりました" 淡白な自動音声と共に、暗闇から男女の裸体が現れる。 「馬鹿!勝手にやめてよ!」 咄嗟に身体を隠そうとするも、1Kの中で隠れられる場所もなく ただただ哀れな姿の私に、彼は品定めするような視線を送る。 「綺麗じゃ…ないから。」 前の彼氏がそうだった。 いつも電気を消していたからだろうか。 付き合って1年記念で行った温泉旅行。 二人で初めて貸切露天風呂に入ることになった。 勿論、緊張はしていたし不安しかなかった。 初めてきちんと見せる裸に 見られないようにしていた大量のほくろ。 気にしすぎと言われたらそれまでだが テレビに出て来るような女優やモデルを見る度に思う。 何で私には… 少しだけなら良かった 口元に1つ、とか 胸元に1つ、とか でも、何となく当時の彼なら大丈夫だと思っていた。 入った途端にせがまれてタオルを剥ぐと その笑顔は瞬時に引き攣ってしまった。 結局、その晩は求められることもなく 連絡も歯切れが悪くなり、気づいたら関係は自然消滅していた。 「綺麗だよ。」 私を抱く時に、当時の彼がよく言ってくれた。 でもそれは 見えない時の私であって 見えている時の私ではなかった。 でも この人は違った。 彼は、ゆっくりと身体を隠す私の手を解く。 「白い肌に浮かぶ黒い宝石のようだ。」 なんてクサい台詞だろう。 今の私なら笑い飛ばしてしまう。 ただ当時の私には 不覚にも、それが愛の言葉に聞こえてしまった。 シャワーを浴びながら 再びベッドに行きながら 彼は見えている私を愛してくれた。 太陽が真上に昇る頃 彼の腕の硬さで目を覚ました私は 寝ぼけている彼に問いかける。 彼は断った。 今は、そういうのはいい。 わかった。 私は多分、そう答えたと思う。 やけに素直に受け入れられたのは お酒が抜けたからかもしれない。 それからと言うもの 身体を重ねる度に 私は彼について知っていった。 彼も今は一人であるということ。 ほくろのある女性に興奮するということ。 初恋の人に大きなほくろがあったからであるということ。 2週間に1度、性欲を吐き出したくなるということ。 会話は雑でも、セックスは丁寧であるということ。 正常位の際に、背中を撫でると感じるということ。 ちゃんと私が満足するまで付き合ってくれるということ。 映画を見るときは、ポップコーンよりもタコス派であるということ。 周りの人から見れば ただの セフレ でも私には 恋人以上 セフレ未満 彼にとって 私は都合の良い女であるように 私にとっても 彼は都合の良い男 それくらい 私を満たしてくれた存在 … だけど ………
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