黒い私

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「明日朝早いんだよね。」 髪を乾かしながら、ドライヤーに負けない声で彼に言う。 「おっけ。朝6時に目覚ましかけて。」 "AM6時に目覚ましをセットしました" 「あ、違う違う。私、今日は帰る。」 「は?帰るって言ったって、終電なんてとっくにないけど?」 「大丈夫。タクシー拾うから。」 「いや、そこまでしなくてもいつもみたいに…」 「ほんとに、明日早いからさ。」 鞄とスマホを持って、そそくさと玄関に向かう。 よろよろと後を追う彼に背中を向ける。 「じゃあ、おやすみ。」 「お、おう。またな。」 ガチャ 最近は夜でも蒸し暑くなってきた。 せっかくシャワーを浴びたのに ブラ紐の当たる場所が痒くなる。 5分くらい歩いたところで ようやく私は後ろを振り向く。 彼が私を追いかけてくることは、ない。 だって 彼が求めているのは 私ではないから。 彼が次に求めて来るのは きっと2週間後だから。 … ……… ふと、月の光がないことに気づく。 立ち止まって夜空を仰ぐと いつもは見えない三等星や四等星たちが これみよがしに存在をアピールしてくる。 黒い額縁に敷き詰められた宝石に 私は大きく嫉妬をする。 「私だって…こっちがいいよ。」 どうせあいつは カーテンすら開けてないんだろうな。 温かく滑り落ちる透明な流れ星に 何度目かわからない誓いを立てる。 次こそは… 絶対 次こそは。
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