<第一章-Ⅵ>美しい出逢い

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「じゃあ、また連絡しますね」 「ありがとうございます、お待ちしてます!」  彼女は終始物腰の柔らかい態度で接していた。第一印象であるあの強い姿勢が嘘のようで、なんだか唖然としてしまう。ゆるりと揺れる彼女のピアスも今は鳴りを潜めているように感じた。  ナオの赴くままに退店をする。買い物は、と声を発しそうになって止めた。どうせ今から買い物をしたところで、余計にナオと彼女の接点を増やしてしまうような気がして嫌だった。   虫のように集っている不良集団の隣を通って、来た道を戻っていく。俺の気持ちだけが正反対のままで。ぬるりとした湿気が俺の頬を撫でては不快にさせる。 「……ナオって意外とあざといよな」 「何が?」 「距離の詰め方、上手だよなっていう話」 「ああ、癖だよ癖。処世術みたいなもの。あんまり褒められた気はしないかな」  ふぅん、と幾許か気の抜けた相槌を打つ。少しナオの瞳が夜に溶け込んだ。 「かっこよかったな、あのレオさんって人」 「うん、そうだね」  羨望交じりの表情でナオは眦を下げた。  まるでナオとは正反対の少女。強くて体躯も女性の割には大柄で、自分の意見を貫くことができる。ナオだって強い、自分の意見を飲み込んでも、苦しい思いをしても、彼は彼であることを止めない。ただ隣の芝は青く見えるもので、彼が本当に求めている強さはああいう素朴なものなのかもしれない。  俺たちは無言で部屋までの一途をたどった。部屋は相も変わらず蒸し暑くて、でもコンビニの人工的な強さよりも幾許か過ごしやすくて、そんなところを張り合ってしまう自分が情けなくなった。  そんな感情をナオには悟られたくなくて、うつ伏せでベッドに倒れ込む。 「あれ?作業するんじゃないの?」 「なんか疲れた…、ちょっと体調悪いかも」  瞼を閉じて、考えないようにするのに。思考はぐるぐるとナオとあの少女のことを考えてしまう。罪悪感とどうしようもない独占欲が綯い交ぜになって、身体を押しつぶしているような気がした。 「そっか、分かった。ゆっくり休みなね」 「うん、ありがとう…おやすみ、ナオ」 「ルカ、おやすみ」  この挨拶だけが俺たちだけの秘密の言葉になればいいのに、むくむくと湧き上がる我儘を堪えるように足元で丸まったブランケットを深くかぶった。
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