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 今日も雨だった。梅雨だから毎日のように雨が降っている。  今日は来るのだろうか? いつものように窓際のあの席に予約が入っている こんな大雨でも来るのだろうか?  名前は予約ノートに書いてある。 (月島)様だ。  それにしても酷い雨だ今日は早めに店を閉めたほうが良さそうだ。こんな酷い雨の日に来れるのだろうか?(月島)様のいつもの席に予約の札を置いたけど。  その時、カランコロンとドアが開くとベルが鳴るようになっている(喫茶ミルキー)のドアが開いた。  いつもの女性のお客様だ(月島)様だ。 私はいつものように注文を聞いた。  (月島)様はいつも通りカフェオレのホットを 頼んだ。  珈琲のいい香りが漂う。大雨の為か今日はお客様が少ない。私は(月島)様に今日こそ話そうと思っていた。  私はカフェオレのホットをお盆に乗せて(月島)様が座っているテーブルまで運んだ。  「いつもご予約ありがとうございます。今日は大雨ですので少し早めに店を閉めようと思ってるんですよ。  こんな雨の中、駅から少し離れてるこの場所に来るの大変なんじゃありませんか?  駅前にはたくさんの喫茶店があるのにいつも うちをひいきにしてくださりありがとうございます。  ところで差し支えなかったらいつも雨の日にここに来てくださる理由を教えていただく事はできますか?  それにここの席予約までしてくださる理由も。 いえね。駅から遠いのに大変だなーと思っていたものですから」 女性は仁志に言った。  「実は〜あそこに見える病院があるでしょう。 私がまだ9歳の時、私はあの病院に入院してたんです。肺炎だったんです。  私はだんだん体調が良くなりましたが私の隣に寝ていた女の子は徐々に身体が弱っていったんです。  私が入院していた時、その女の子は救急車で運ばれて来ました。  自分も具合が悪いのに私が高熱で苦しんでいる時、「頑張って私も病気と戦うから」とその子は私を励ましてくれたんです。  私はその女の子より先に退院しました。 退院する時、急な雨で駐車場まで行く時に傘がなかったので濡れてしまうのは仕方ないねと迎えに来てくれたお父さんとそう話していました。  それを聞いた女の子がこの傘を貸してくれたんですが〜この傘を返そうと病院に行ったんですが女の子はいないと言われて、この傘に住所が書いてあったらしいんですが途中で破れていてわからないんです。  私は今の私がいるのはあの時女の子が私を励ましてくれたからだと思っています。  私の高熱と咳は何日も続いて苦しかった。 私は傘を貸してくれた女の子に会いたくて探していました。ずっと……。  この近くに住んでいるって事はわかったんですが〜きっと同じ歳のあの時の女の子は大人になっても面影は残っていると思うんです。  だから窓際のこの席に座っているんです。 天気がいい時はこの近くで聞き込みをしてるんですよ。一言お礼を言いたくて。この傘の持ち主 マスター知りませんか?」 僕はその傘を見て涙が止まらなくなった。  (月島)様は私をじっと見ていた。 「どうされました?」(月島)様は私に尋ねた。 僕は言った「それは〜その傘は〜僕が妹の誕生日に買ってあげた傘です。妹が入院する一ヶ月前に僕が買ってあげた傘です。 そうですか〜妹が(月島)様に親切にしてあげて たんですね。よかった妹の病院での事を知る事ができて〜ありがとうございました」 月島は「そうですか〜ではこれお兄様にお返ししますね」 僕は妹が貸した傘を受け取った。 月島は言った「ところで妹さんは今、何処にい るんですか?一言お礼を言いたくて」 僕は言った「じゃあ天気がいい日にこの店に来てくれますか?妹と両親のお墓がこの近くにありますので」 月島は「それじゃあ〜」 僕は言った「妹は白血病で手遅れだったんです」 それが彼女との出会いだった。それから毎年彼女はお墓に来てくれるようになった。  そして天涯孤独だった僕は38歳になっていた。 そして僕は今年、月島陽子さんと結婚する。 妹の吉田春美が彼女を引き合わせてくれたのだろう。  「いつまでも一人でいたら駄目よ!」 妹の声が空から聞こえた気がした。 完
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