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仁志
仁志は36歳で結婚もしていない天涯孤独だった。
ほんの10年前までは仁志の父も母も生きていた。家族が亡くなったのは突然だった。
初めに亡くなったのは妹だった。あの頃は妹がまだ10歳で仁志が13歳だった。
妹は9歳の時からよく風邪をひくようになった。
頑張り屋の妹は仁志や両親が「風邪が長引いてるから病院に行こう」と言って連れ出そうとしても行こうとしなかった。
「風邪くらいたいした事ないから」いつもそう言った。
そして遂に仁志の妹春美は無理して行った学校で倒れた。
そして学校から救急車を呼び母親のみゆきも担任の森田泉から連絡をもらい東京救急病院に駆けつけた。
東京救急病院で春美の担当医師の瀬戸口亮は直ぐに家族に連絡を入れるように言った。
仁志の両親は東京救急病院で妹の病状を聞いていたが両親は春美と仁志には春美の病状を教えなかった。
仁志が春美の病名と病状を知ったのは春美が亡くなる一週間前だった。
病名は白血病だった。
ずっと倒れるまで我慢していた春美は救急車で運ばれた時にはかなり病気は進行していた。
病気が判明してから僅か一年で妹は亡くなったのだ。
両親は仁志が26歳の時二人とも妹の死から立ち直れず妹の事をなるべく考えないようにとがむしゃらに仕事をしていた。
二人の夢は夫婦で喫茶店をやる事だった。
でも妹が亡くなってから喫茶店の話を夫婦で話しているところを仁志は一度も見なくなった。
両親はそんな夢を語る元気さえも完全に失っていた。
僕はその時から喫茶店を経営しよう。自分の店を持とうそして両親を元気にして一緒に喫茶店で働いてもらおうと思っていた。
そんな矢先父も母も過労で倒れ呆気なく死んでしまった。
俺は両親の夢を叶える為にがむしゃらに働いてやっと自分の店を持つ事ができた。
僕は今、自分で開店させた喫茶店で働いている。
店の経営は順調だった。「喫茶ミルキー」の珈琲はとても美味しいと評判だった。
仁志はお客の笑顔を見るのが嬉しかった。
ただ一つ仁志には気になる事があった。
「喫茶ミルキー」にいつも雨の日だけ来る女の人がいた。
雨の日に悲しい顔をして……
僕は雨の日だけお店に来る女性のお客様の事が気になっていた。
「なんでそんな悲しい顔をしているんだろう?
そしていつも同じ席に座ってる」
雨の日あの席をいつもあの女性のお客様は予約して指定席にしている。どうしてあの席にこだわ
るんだろう?
僕は雨の日に来るお客様が気になって仕方なかった。
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