刺繍会

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刺繍会

――――ブルーム侯爵邸。 「本日はお招きいただきありがとうございます。パトリシア夫人、フィオナ夫人」 「きゃっ、噂通りのイケメンね」 「一度殿方の意見も交えてやってみたかったのよね。リュリュちゃんに感謝ね」 「あ、いえ。そんな」 本日はブルーム侯爵邸での刺繍講座の日である。講座といっても、刺繍をしたりお茶菓子を嗜んだりして気ままにすごすだけなのだが。 今回はルカたんきっての希望で、一緒に来たわけだ。 目の前にいる女性2人はどちらもアーサーのお義姉さんである。1人目がパトリシア・ブルーム夫人。アーサーの一番上のお兄さんの奥方で、つまりは次期侯爵夫人。ライラック色のセミロングの髪に、アーモンド形のライトブラウンの瞳を持つ美人だ。 そして2人目がフィオナ・アイリス夫人。こちらはアーサーの2番目のお兄さんの奥方。次期アイリス侯爵夫人。アーサーの2番目のお兄さんはアイリス侯爵家に婿入りしているのだ。 フィオナ夫人はふわふわな赤みがかった黄色の髪を後ろでまとめており、たれ目がちな琥珀色の瞳を持つかわいらしい女性だ。 更に今回は、リーディアさまも一緒に参加で、それぞれと挨拶を交わす。 ――――極めつけはと言うと。 「ついでに、ウチの末弟を生贄に連れてきたから、好きに使って頂戴ね」 と、パトリシア夫人が、義理の末弟・アーサーをじゃじゃーんとお披露目し、ルカたんに差し出していた。幼馴染みが、お義姉さんずに生贄としてルカたんに差し出されてたー。 「な、何でだよぉっ!」 アーサーは果敢にも抵抗するが。 「私たちが刺繍している間、リュリュちゃんの婚約者さまが退屈をしたらこまるじゃないの」 と、パトリシア夫人。 「いや、好きで付いてきただけだろーがっ!何で俺がぁー」 「あと、殿方の意見も取り入れるという目的もあるの」 と、フィオナ夫人。 「え、でもそれってアニキたちだろ?直接聞けばよくない?」 「――――ったく、女心なめてるわね。今日はビシバシいかないと!」 と、パトリシア夫人がきりっとして言い放つ。 「いや、俺何のために呼ばれたん??」 アーサーはたじたじであったが、ルカたんが優雅に席について茶菓子を嗜んでいるのを見て、何か諦めたのかアーサーも静かに隣に腰掛けていた。 さて、俺たちは早速刺繍である。 「この間、ルカたんに牡丹などの花の刺繍入りのハンカチを贈ったんです」 「あら、ステキ!牡丹と言えば、リュリュちゃんのとこの伯爵家とルーカスさまの公爵家の家紋にもあるわね」 さすがはパトリシア夫人。すぐに合点がいったようだ。 「はい、喜んでくれて良かったです」 「やっぱり最初はハンカチかしらね」 と、フィオナ夫人。 「他には何がいいでしょうか」 と、リーディアさま。 「ご意見番に聞いてみましょうか」 そうパトリシア夫人が告げると、ルカたんとアーサーに視線を移す。 「どんなのが欲しいかしら?」 と、フィオナ夫人。 「そうだな、私は」 ルカたんは、何が欲しいのかな?ドキドキ。 「リュリュが刺繍してくれたものなら何でもいい。いっそ、パンツでもいい。肌でリュリュの刺繍を感じられるからな」 ぐはっ。てか、ご婦人たちの前でパンツて、ルカたあぁぁぁんっ!? 「あら、ラブラブじゃない」 「それいいかもしれないわ」 何か、夫人たちが悪巧みをしてそうな気が。 「ウチの旦那には、ぞうさんの刺繍のアップリケを付けたパンツにしましょ」 「あら、パトリシアお義姉さま。では私はくまちゃんにしますわ」 おほほほほっと微笑みながら恐ろしい作戦を練りだしたパトリシア夫人とフィオナ夫人。 ぶるぶるる。これは聞かなかったことにした方がいいかな? 「ぜってー後で俺がアニキたちに絞られるぅっ!」 と、アーサーが脅えていた。いや、生贄はそう言えばアーサーだったなと思い、俺は今度ルカたんに刺繍入りのおパンツを贈ろうと思った。柄は何がいいかな?夫人たちは動物シリーズのようだし。ルカたんのイメージの動物、か。ハシビロコウにしようかな? 何と言うか、眼力が。 「わたくしは自分用にかわいい動物にしますわね」 と、リーディアさま。 それはそれでかわいらしいかも。 まぁ、そんなわけで刺繍アップリケを作ったり、リボンに刺繍を施したものはその場でルカたんの襟元に結んであげた。 「あぁ、嬉しいよ。リュリュ。パンツも楽しみだ」 え、それはマジで楽しみなの?それを問おうかどうか迷っていれば、唇に口づけを落とされ、そして至極大事そうに抱きしめられたのだった。 女性陣から歓声が上がったのは、言うまでもない。 んもぅ、ルカたんったら!でも、この腕の中が一番落ち着くのである。 えへへー。 *** その後、ルカたんから自前のおパンツを贈られてアップリケを付けたのだが。 1枚くらい持って行ってもいいぞと言われてめっちゃ迷ったが……返却しておいた。
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