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思いもよらぬ救援
――――翌朝
またこの試練の時がやって来た。
「待っていたぞ、リュリュ・スノーフレーク!」
げぇ。学園に到着した途端に王子が出現したんだけども。
《くっそ、去ねや!!》
俺と、一緒に来た双子の妹のアンズは心の中でそう叫んだ。うん、何となくわかるんだよね。2人とも同じこと考えたって。
「昨日は何故突然帰ってしまったんだ!私と一緒に帰る予定だったのに!」
し、知らねぇよそんなことっ!
てか、もしも王城行きの馬車に乗ったが最後!王城まで連れていかれ、何されるかわかんないじゃん!誰がお前なんかと帰るかよ!!
「さぁ、今日も一緒に行こうか」
いいえ、行きません行きません。何この王子。一緒に行ったことなんてないぞ?今日もって何だ、今日もってぇ~~~~っ!
――――しかし、その時だった。ふわりと誰かの腕が俺の腰を抱き寄せたのだ。
一体、誰が……。
「ヴィクトリオ第1王子殿下。私の婚約者に何の用ですか」
えっ、婚約者?誰が誰の……って。
俺はその腕のヌシを見上げて絶句した。開いた口が塞がらないとはまさにこのこと。インディゴブルーの髪にダークレッドの切れ長な瞳。白く抜けるような肌に恐ろしく美しく整った顔立ち。
る、るるる、ルカたあぁぁんっっ!……あ、いや取り乱したけどそのひとは、ルーカス・アンティクワイティス公爵令息そのひとだったのだ。
え、何でルカたんが?俺を?婚約者あああぁぁぁっっ!?
「な、なんだそれは。聞いたことがないぞ!」
「それは当然です。殿下。何せアンティクワイティス公爵並びに宰相であるシーザー・アンティクワイティスの息子と、その宰相補佐の息子の婚約。重要な婚約でしたので、これは水面下で父上が調整していたものです。ですが、最近の殿下の行動は目に余る。これ以上、婚約者のリュリュにちょっかいを出されるのは困ります」
こ、婚約者!しかもルカたんが俺の名前呼んだ――――っ!
温めていた卵からヒヨコが無事に孵った時のような衝撃っ!感動!ぐあああぁぁぁぁっっ!!!
「それに、婚約者のいる令息が嫌がっているのにも関わらず、追いかけまわすのは王族として、いいえ、ひととしてクズ以外の何ものでもない」
堂々と王子にクズって言ったぁ――――っ!さすがは王弟の息子、宰相の息子、公爵令息!……っパネェ!
「な、ななな、貴様!この王子である私に、クズだと!?」
「はっきり言います。リュリュは嫌がっています」
「はっ!?この王子の私と一緒にいられるのだぞ!嫌がるはずがない!そうだろう、リュリュ!」
いや、勝手に名前いうなや。むしろ逃げられている時点で気づけ。ばかたれが。
「リュリュ、ここは素直に言っていい。何があっても私がリュリュを守ろう」
きゅんっっ!!
はうああぁぁぁっっ!ルカたんが俺に向かって微笑んでいる!天使の笑みやあああぁぁぁっっ!
「うん、王子殿下なんて大嫌い」
もう俺、何も恐くない!ルカたんを見つめられるだけで最高だもんっ!
「んなっ」
視界の端で、王子が崩れ落ちるのが分かったが、どうでもいい。だって、だってルカたんが俺に向かって微笑みかけてるんだよっ!?
「今日は朝から気分を害されたな。帰ろうか」
「え……、帰るの?」
「あぁ。あのようなものがいる学び舎など不安だろう?暫くは心身を休めた方がいい」
「う、うんっ」
そんな、優しくされたらきゅんきゅんしてすべてにイェスって答えたくなるぅっ!いやもう答えてるううぅぅぅっっ!
「ノートは取っといてあげるから。行ってらっしゃい」
「え?うん」
アンズがノートを取っておいてくれるなら大丈夫か。
俺はルカたんにエスコートされて、馬車に乗り込んだ。
ん?馬車?この馬車ってどこの家の?てかどこ行くの?帰るって、言ってたけども。
「あの、ルカたっ……あぁいや、アンティクワイティス公爵令息さま?」
「そのように他人行儀に呼ぶな。昨日のように呼べ」
え、昨日?
「私の嫁になりたいのだろう?」
ぐはっ。
「ど、どこで、その話を?」
「とある教室に備品を取りにいったら、その教室の扉が内側から氷漬けになっていて、その中からリュリュが私に愛を叫んでいるのを聞いた」
がはっ。
マジ聞きされてんじゃんかっ!?
「さぁ、昨日のように呼んでくれ」
「えっとー、る、ルカ、たん?」
「あぁ、よくできたな、リュリュ」
そう言って、甘い声で隣に座って囁いてくるルカたん。マジ尊いいいいぃぃぃっっ!!
「リュリュ。リュリュが私の嫁になりたいとは、夢のようだな」
そう言って、俺の顎を持ち上げて見つめてくるルカたん。なにこれ尊すぎ。
「あの。婚約者ってあの場を切り抜ける、方便ですよね?」
「敬語などやめろ」
「は、はいっ、いや、うんっ!!」
「うん、いい子だな」
囁くたびに色っぽすぎるんだけどっ!?何この萌えシチュは~~っ!
「あの、婚約者って、マジ?」
「当たり前だ。あぁ、もう婚姻を結びたいのか。在学中だが別に構わない。私は早くリュリュを我がものにしたい」
「え、えっと、そう言うわけではっ!ま、まずは婚約からが貴族的なマナーかと!」
「そうだな。まぁいい。取り敢えずは婚約者で我慢しよう」
ちゅっ
……ふぇ?
「んっ、口にも欲しいか?」
……え?
んちゅっ
「あぁ、一度やりだすと止まらなくなりそうだ。リュリュ、もっとむしゃぶりたい」
な、何で~~~~っ!?ちょまっ、何でこんなことになってんのぉ!?
「その、お、お腹いっぱい、だからっ」
「注いでいないのにか?」
何を、どこに、注ぐの??
こてんと首を傾げていれば。
「かわいい、リュリュ」
馬車の中で抱きしめられ、至る所に口づけを贈られた俺であった。
――――だから何でぇっ!?
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