仮装パーティー

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仮装パーティー

秋の学園行事には仮装パーティーと言うのがある。これも社交の講義の一環で行われるもので、実際の社交界でのものとは一風変わった催しである。 ぶっちゃけ言えば、学生向けのお楽しみイベントに近かったりする。 もちろん、社交の講義の一環なので、パートナーは必須。だが、女子が男装したり、逆もありなのでそのパートナーは異性も同性も入り混じっている。まぁ、踊りを踊ると言っても本格的なのではないため、男性パートや女性パートを考えなくていいという利点もあったりする。 去年の1年次は俺はアンズと参加した。母さんきっての希望で、双子コスを披露した。因みに猫耳しっぽであった。あぁ。懐かしい俺の……黒歴史にゃぁ。 ――――ずーん。 「リュリュ、今年の仮装パーティーは何を着ようか」 そんな俺の心を知ってか知らずか、ルカたんが俺の隣に腰掛け、妖艶な微笑を向けてくれる。はわわ、真っ黒な黒歴史が、純白な光に浄化されていくようやわぁ。 「う~ん、無難なものがいいかなぁ」 今年はもちろん婚約者のルカたんと参加する。アンズはアーサーと参加するそうだ。ゼナは学外者だけれど、婚約者のヴィダルさんと参加する。 猫耳しっぽはあれで終わりにしたい。 「私には何を着て欲しい?」 「えっと、そうだな」 ルカたんのイメージ? 「狼?」 ほら、男はみんな狼だって言うじゃん?俺も男だけども。ルカたんの方がより、狼っぽいカッコよさを持っているのだ。 「では、リュリュはウサギかな」 う、ウサギ!?まさか今年はウサ耳しっぽ!?いや、でもルカたんのリクエストだしなぁ。 まるで何かを期待するような、ルカたんの眼差し。この眼差しに抗うことなど誰ができようか。 「うん、ウサギと狼にしよっか!」 俺は即答し、ルカたんも満面の笑みで頷いた。 「それじゃ」 それじゃ?早速作るの? 「私は狼だから、早速ウサギのリュリュを襲ってもいいかな?」 そう言って、押し倒してきたルカたんに、俺はちゅっちゅとありったけのキスを贈られたのであった。 「ひぁっ!?」 「ん、鳴き声のかわいいウサギだ」 ぺろりと舌なめずりをするルカたん。 や、やっぱり狼似合うううぅぅっっ!! *** そして、仮装パーティー当日。 俺は藍色の燕尾服に藍色のウサ耳しっぽをつけ、ルカたんは白いスーツに白い狼耳しっぽを身に付けた仮装で参加した。 なお、暑い夏が過ぎればスーツやドレスの色は拘らないというか、婚約者や伴侶の瞳や髪の色を身に付けるのが普通になる。だから今回は、俺とルカたんはお互いの色を身に纏っている。 アンズは三角帽子の魔女にしたらしい。そしてパートナーのアーサーはミイラ男の仮装で、黒いスーツに包帯をあちらこちらにあしらっている。 ゼナは弓士(アーチャー)の格好をしており、ヴィダルさんは斧を担いだ狩人。もちろん武器は偽物で、飾りなのだが。何だろう、この2人。これから一体何を狩りに行くんだろ。 リーディアさまは友人たちと妖精の仮装をしていた。 妖精さん的なちびリューリューずの衣装とは異なり、ドレスの背にかわいらしい羽根がついた妖精さんコス。この世界にもあぁいった妖精さん伝説はあるのだが、ちびリューリューずには当てはまらない。 因みにちびリューリューずは本日はお家で母さんのパンプキンお菓子に夢中になっておりお留守番だが、俺とお揃いのウサ耳カチューシャをかぶせて仮装させた姿を、来る前にルカたんに見せたら、発狂しそうになっていた。 る、ルカたあぁあかかあかんっっ!しかし寸でのところで耐えたルカたんは、俺をお姫さま抱っこしてそのまま馬車に乗り込んで我慢したというわけだ。 そして立食スタイルでルカたんとパンプキンお菓子をあーんしあっこしていた時だった。 「リュリュ・スノーフレーク伯爵令息!」 何だか聞き覚えのある声に呼びつけられて視線を向ければ。 そこには王子ヴィクトリオとユリアンがいた。 何でも王子のコスは白馬の王子(いや、もともと王子)でユリアンは姫ドレスらしい。女装も似合うなぁ、ユリアン。 不躾に俺の名前を呼んだヴィクトリオに対し、ルカたんがあからさまに不快感をあらわにした。うん、俺もわかる――――っ! ルカたんの睨みにびくついたヴィクトリオだったが、それでも続ける。 「此度、このユリアンが私の公認の恋人になった!」 え?はぁ、そうっすか? まぁ、現在婚約者のリーディアさまも、ハイドレインジア公爵家としては婚約解消に向かって歩き出しているというし、ヴィクトリオが恋人を作りたいのなら好きにすればいいと思う。 「自分の立場を省みることだな!」 はぁ?何で?意味がわからない。そんな視線を向けていれば、ユリアンがふっと嘲るように俺を睨む。そして恋人の隣だというのに、次の瞬間にはルカたんに誘うような視線を向けるのだ。何なんだ、ユリアンて。 しかし、ウチのルカたんがそんな誘いに乗るはずもなく、ルカたんにキッと睨まれたユリアンは、ビクッと震えて逃げるようにヴィクトリオと去って行った。 「不愉快極まりないな」 全く、ルカたんの言う通りである。 「こういう時は食べなきゃね」 そう言って俺はパンプキンケーキに手を伸ばす。うん、これも美味しい。 「ふふっ、食い意地が張っているリュリュも、かわいいな」 ルカたんがそう言って、俺のこめかみに口づけを贈ってきた。 「ちょ、ルカたんったら」 「もうこのまま、食べてしまいたいな」 んもぅ~~っ!でも、そんなルカたんにもちょっときゅんとくる俺であった。 ん、パンプキンお菓子うま~。
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