学年末

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学年末

冬季休暇が明ければ、次は学年末試験が来る。 「え、アンズ、アーサーと婚約したの?」 「うん、そうなの」 と、全く学年末試験と関係ない双子の話から始まったわけだが。 ――――ここは学園の図書室である。 「まぁ、なかなかいいエスコートだったし」 「そう言えば、何度かエスコートしてもらってたよね」 「幼馴染みでよく知った仲だし」 「うん、確かに」 俺もアーサーなら安心……いや、アーサー自体はある意味心配なのだが、アンズが一緒ならば大丈夫だろうとも思う。――――しかしながら。 「レポートと試験範囲の勉強がっ!」 ぐっとアンズが拳を握りしめる。 「むりー、俺もうむりー」 と、アンズの隣で根を上げるアーサー。 この2人、実技なら完璧なのだが、座学が苦手であった。アンズは理論ならば感覚で理解し習得する。しかし試験問題のように具体的に説明したり、レポートのように解説したりするのが苦手なのである。そしてそれはアーサーも同じだった。 だからここで、いつものみんなで集まっているわけだ。ルカたんは先生から呼ばれて用事をこなしているので、終わり次第来てくれる。 今は俺、アンズ、アーサー、ゼナの4人だ。 そして将来アーサーはウチに婿入りして領主になるわけだが。そこら辺は代々優秀な家令がいるから大丈夫だと思うし、ウチの父さんも準備しているだろう。まぁ、説明すれば理解できるくらいには天才肌な2人なので領地経営については大丈夫だと思う。 だが、試験問題とレポートは別なのである。 何故かそこはマッチングしない。テストやレポートが完璧でも完璧な仕事をこなせるかどうかとは別なのである。 「ある意味お似合いなんじゃないか?」 と、ゼナ。それを言ってやるなよ、幼馴染みよ。 「まぁ、2週間前までには試験対策集作るし。それを頭に叩き込んどいて?」 『イェッサー!!』 いや、サーっておいおい。 2週間で頭に叩き込むのは平気なのに、何故か試験勉強は捗らない2人なのだ。 「いや、つかさ。リュリュが付いている時点でチートだよなー。あ、参考までに俺にもちょうだい」 「いいよ」 ゼナは剣も魔法もできるが、基本的に試験は普通にパスできる。試験結果もいつも中間くらいだったよね。 「あとはレポートかぁ。取り敢えず何か書いてみて?」 俺は試験対策集を作りながら2人に命じる!さぁ、やるがよいっ!……―なぁんて。 『えええぇぇ―――』 そこ、え×5とか言うなや。全くもぅ。 「……ってかアンズはいいよなー。宿題もあれだろ?リュリュに手伝ってもらってたじゃん。あれ、俺が知った時何でもっと早く教えてくれなかったかと嘆いたことか!」 「アーサーったら。私とリュリュは双子なの。双子なんだからふたつでひとつよ。だから当たり前なことなのよ。うん、うん」 え、そうだったの? 2人の様子に苦笑していれば。 「へぇ、君たちは本当に仲がいいのだね」 後ろから声が掛かり、俺たちは一斉にその人物を見やった。 「第2王子殿下」 それは、あのヴィクトリオとは似て非なる王子殿下。ハヤト第2王子殿下だった。ヴィクトリオとミルクティー色の髪は同じながら、瞳はアッシュモーヴである。そして表情がまず、違う。何だかふんわりとした安心させてくれるような雰囲気を纏っている。 これ!これだよ!これこそがおとぎ話とかでよく出てくる王子! ※あくまでも前世の知識です 「私たちは宿題を互いにやったりとかはなかったかな。それぞれ独立してそれぞれの講師に勉強を習っていたし、一緒に勉強しようとも思わなかった」 「まぁ、王族には王族のやり方があるのでしょうし」 俺は躊躇いがちに告げた。 「まぁね。わたしの宿題をヴィックにやらせてもとても及第点はもらえないからね」 さりげなくディスってない? まぁ、第1王子のヴィクトリオはあぁだが、ハヤト第2王子殿下はたいそう優秀なことで有名だ。彼が王太子にならなかったのは、単にヴィクトリオが第1王子だったからというだけ。ほんの僅か先に 産まれた方が、自動的に王太子の座を得たというだけなのだ。 まぁ、そう言う意味では俺もほんの僅か先に産まれただけでアンズの双子のお兄ちゃんなわけだが。 「妹の特権ってあるわよね!」 と、俺の考えが何となくわかったのか、アンズがキラキラした笑みで言う。 「頼られるのはお兄ちゃんとしてもいいかも」 「頼れるお兄ちゃんっていいな、羨ましい」 そう、呟いたハヤト第2王子殿下の声音が悲壮感に満ち溢れているように聞こえたのは、気のせいかな? 「ね、リュリュくん」 「はい、殿下」 「ハヤトでいいよ」 「いやー、でも」 「学友なんだし」 まぁ、確かに。冬季休暇明けから、ハヤト殿下は編入生として学園に通い始めたのだ。 「では、ハヤトさま?」 「うん。あのね、私はリュリュくんみたいなお兄ちゃんが欲しかったんだ」 はへ? 「私もお兄ちゃんみたいに慕ってもいいかな?」 「はい?」 「ダメに決まっているだろう!!」 その瞬間、ハヤトさまの肩をぐわしっとおどろおどろしい覇気を見に纏いながら掴んだルカたんが現れた! ひぇ――――っ!? 「えぇ、ひどいなぁ。アンズ嬢もダメかい?」 と、今度はアンズに問うている。 「う~~ん。よそはよそ!ウチはウチ!」 その使い方は合っているのかどうかわからないけれど、アンズが明確に双子の敷居の中に入れまいとしている! 「あ、もち、ルカさまはいいですよ」 「あぁ、ありがとう」 「ルーカスだけずるいー」 と、苦笑する。ハヤトさま。 「まぁ、弟になれなかったのは残念だけど、これからも仲良くしてくれると嬉しいよ。ではね」 そう言って手を振りながら、ハヤト第2王子殿下は本棚の方に向かって行った。 ――――そして。 「お待たせ、リュリュ」 そう言って俺のこめかみに口づけを贈りながら、ルカたんも俺の隣に腰掛けたのだった。 「うん、待ってた」 そう言うと、ルカたんからちゃんと待てたご褒美になでなでしてもらったのであった。 はうぅー。和むー。
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