断罪

1/1
前へ
/37ページ
次へ

断罪

――――春休みの終わりには、学年ごとに社交の講義の一環でパーティーがある。3年生は卒パだけれど、1、2年はそれぞれ、1年間お疲れさまパーティーみたいな感覚である。 俺はもちろんルカたんとお揃いのスーツを着て参加である。俺はルカたんのインディゴブルー色のスーツ、ルカたんはアイスブルーのスーツ。それぞれお互いにお揃いのダークレッドの牡丹のコサージュを身に付けている。 「リュリュさま、ごきげんよう」 声を掛けてくれたのは、ハイドレインジア公爵令嬢のリーディアさまだ。でも、何か雰囲気が違う? 「あ、髪、かわいいね」 「えぇ、ありがとう。本来のわたくしの髪質なんですの」 えぇっ!?ストレートロングじゃなかったの? 目の前のリーディアさまの髪は、ふわふわしているゆるふわロングであった。 「昔、とあるバカがストレートが好きだと言っていたのでそうしていたのですが、もう、必要ないのです」 とあるバカって、まぁ、決まってるよね。それに、それがもう必要ないってことは。そう、思った時だった。 「リーディア・ハイドレインジア公爵令嬢!」 とあるバカの声が、パーティー会場に高らかに響いた。 そして人波を掻き分けてやってきたのは。 「私、フローリア王国第1王子のヴィクトリオ・フローリアは貴様との婚約を……破棄する!」 そう告げたヴィクトリオ殿下の傍らにはユリアンが寄り添っており、ヴィクトリオと一緒にリーディアさまをキッと睨んでいたが、2人して俺とルカたんどちらかを見てばつの悪そうな表情を浮かべた。 いや、それならちゃんと現状確認しとけやっ!やっぱバカ!あと、ヴィクトリオの視線やらしい!見るな~っ! そう思っていれば、そっとルカたんが俺を後ろに庇ってくれた。はぅああぁぁっ、ルカたぁんっ! リーディアさまも心配だし。しかしリーディアさまは冷静にヴィクトリオを見据えている。 「そして、このユリアン・ブルーローズ伯爵令息と新たに婚約する!」 「ヴィック!」 ヴィクトリオの言葉に、ユリアンが甘い声でヴィクトリオの愛称を呼ぶ。どうやったらアレに惚れられるんだろう。やっぱユリアンくんって謎!!むしろそういうとこ尊敬してもいいんだけどな。行動が残念令息だからなぁ。 「そうですか。お話は以上でしょうか?」 「えっ」 思わぬ冷静なリーディアさまの言葉に、ヴィクトリオもユリアンも呆然とする。 「兄上」 その時、ヴィクトリオを兄と呼ぶ声が響く。その声の主など、決まっている。ヴィクトリオの男兄弟は第2王子殿下しかいない。 「ぼくの婚約者をいきなり捕まえて、一体何の騒ぎです?」 そう言うと、第2王子殿下ことハヤトさまはリーディアさまに寄り添い腰を抱き寄せる。リーディアさまもハヤトさまに信頼を置いているようだ。 ――――ってか、ええぇぇぇっ!?こ、婚約者!?リーディアさまの婚約者が、ハヤトさま!?あ、てことはやっぱり。 「なっ、ハヤト!?何故、ここに!きさまは3年次からの編入だろう!」 「確かにそうですが、本日は婚約者のエスコートを務めるために参加しております」 「は?婚約者?リーディアは私の婚約者だぞ!」 「何を仰っておられるのですか。先ほど、婚約を破棄すると仰ったばかりではないですか。ま、兄上に伝えるのに待ったをかけたのはぼくですけどね」 「な、何だと?」 「兄上とリーディアの婚約は、先日無事解消された。王家の有責でね。だがそれではあまりにもリーディアがかわいそうだと考えたぼくが、彼女に婚約者になってくれないかと申し入れたんだよ。これでも今まで婚約者を作らなかったのは、リーディアへの気持ちがあったからだ」 「まぁ、ハヤトさまったら」 え、ええぇぇっ!?ハヤトさまって、ずっとリーディアさまのことを!? 「兄上がぼくのリーディアを幸せにしてくれるなら、国内でも国外でもいいからとっととどこかの婿に入ろうと思っていたけれど、案の定、だったね。初恋を諦めなくて本当に良かったよ」 リーディアさまがハヤトさまの初恋の相手!?そう言えば婚約者がいないって聞いたけど、それがずっとリーディアさまを想っていたからだなんて!留学していたのも、リーディアさまへの想いから距離を置くためだったのかな?じゅ、純愛だっ!かっこいい! 「な、なんだそれは!聞いてない!」 「だから、ぼくがとめていたと言っただろう。リーディア、いやリディはぼくの婚約者だ。これ以上、リディを辱めないでくれ」 きっぱりと言い放ったハヤトさまに対し、ヴィクトリオはぐうの音も出ないらしい。そして侍従らしきひとがヴィクトリオに何かを伝えていた。そしてキッとハヤトを睨むと、ユリアンを連れて会場を出て行ってしまった。 「ふふ、多分父上から呼ばれたんだ。雷が落ちるよ?」 愉快そうに告げるハヤトさま。って、それ陛下じゃん。 「まさか本当にパーティー会場でやらかすとはね」 「ハヤトさまは分かっていらしたのですか?」 リーディアさまは不思議そうにハヤトさまを見やる。 「まぁ、ブルーローズ伯爵令息にその作戦を吐露していたのを、密偵がしかと聞き届けたからね」 んなっ、密偵まで放っているとは。ヴィクトリオとはえらい違いである。 「やっとお邪魔虫がどこか行ったのね」 「これで思う存分楽しめるー」 アンズとアーサーのホッとした声に、周りからも苦笑が漏れる。ゼナとその婚約者のヴィダルさんもだ。 今この瞬間、みんな第1王子から第2王子派になったのだと思った。まぁ、第1王子派がいたのかどうかは微妙だけど。いたとしてもユリアンくんだけだよねぇ。 「ほら、リュリュ。邪魔者がいなくなったのだ。私たちも楽しもう?」 「はっ!そうだね、ルカたん!お菓子食べに行こっ!」 「あぁ、リュリュは相変わらず食い意地が張ってるなぁ」 そう言って、頭をなでなでしてくれる。 「はぅあっ」 俺はダンスよりケーキなたちなのである。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加