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父、帰邸
――――馬車の中でルカたんにでろでろに甘やかされていれば、家に着いてしまった。
何だか名残惜しい気もするが、しかしこれ以上はのぼせてしまいそうだから。
「リュリュ、おいで」
「あ、うん」
再びルカたんにエスコートされて馬車を降りる。すると出迎えてくれた家令がきょとんとしていた。そりゃぁそうだ。高位貴族であるアンティクワイティス公爵家の馬車がウチの前に止まっているんだもん!まぁ、父さんの上司の家でもあるんだけどね。
「それじゃぁ、リュリュ。ゆっくり休んで。私はやることがあるから」
やることって何だろう……?しかし。
「あ、うん。ありがと」
送ってもらったお礼は言わないとね。
「それじゃ。それが済んだらまた来るよ」
そう言ってルカたんは再び馬車に乗って去って行った。
てか、また来てくれるの!?はうあああぁぁぁっっ!たっのしみぃっ!!
「……あの、リュリュさま?」
「ひうぅっ!」
家令が恐る恐る俺の顔を覗いてきたので、ビクッとなった。
「これは、一体……?アンティクワイティス公爵家の馬車のようでしたが」
やっぱりバレてるー。いや、分かるよね。国でも1、2を争う大貴族な上に、一家の主の上司の家だもんね。
「あ、あの。ちょっと具合が悪くなっちゃって、用事ついでに送ってくれたんだ!」
取り敢えず、仮病を理由にしてみた。だって、突然婚約者に認定されました――――!……とか言えるかいいいぃぃぃっっ!
「それはそれは、すぐにお入りになってください」
「うん、ありがと」
こうして屋敷に帰邸した俺は、母さんに取り敢えず休んどけと言われて寝室で休んでいれば。
「リュリュさま、旦那さまとはお会いできそうですか?」
と、メイドが呼びに来た。
「え?父さん?家にいるの?」
「つい先ほど、お戻りになりました」
「え?あぁ、うん。わかった」
まだ城で仕事中じゃぁ?何故、家に?まぁ仮病を使ったとはいえ、そんなに重症には見えないと思うのだけど。
***
そして、父さんが寝室にやって来た。
俺の父さんはヒューゴ・スノーフレークと言う。スノーフレーク伯爵であり、宰相補佐を務めている。銀色の髪にアイスブルーの瞳を持つクール系美人だ。……羨ましい。ぐすん。
「リュリュ、具合はどうだ」
父さんはベッド脇の椅子に腰かけて、ゆっくりと口を開いた。
「あ、だいぶ良くなったよ。たいしたことはなかったけど、念のためってことで送ってもらっただけだから」
「……そうか。アンティクワイティス公爵家の馬車で、送ってもらったそうだな」
ぎくっ。
「その、ごめんなさい」
「それが悪いわけではない」
「そ、そう?」
「……だが」
まだ、何か!?まさか仮病ってバレた!?
「宰相閣下から、こちらを預かった」
え、宰相閣下って、ルカたんのお父さんでアンティクワイティス公爵だよね?一体、何だろ?
ペラリと父さんが出してきたのは。
『婚約契約書』
ぐっはぁっ!
「宰相閣下は、お前が嫌なのならご子息を説得して諦めさせると言っていたが。お前はどうなのだ」
「え、えっとぉっ」
それはまごうことなく俺とルカたんの婚約契約書!既に宰相閣下の署名はしてあり、あとは家長である父さんの署名で書類は完成すると思われる。
まさかルカたん、やることがあるって言ってたけど、この書類のこと!?
「その、家の迷惑になったりとかは」
「いや、特には」
ないの?まぁ、相手は高位貴族だし、職務上も上司と直属の部下だけど父さんがないというなら、大丈夫なのだろうけど。
「あの、ルカたっ、いや、ルーカスさまは迷惑じゃないかな?」
「ご本人はノリノリだそうだぞ」
ぐはっ。そんなこと聞いたら嬉しくてしょうがない!いや、馬車の中では口付けの嵐だったけども!
「……それと、最近聞いた噂なのだが」
「……な、なに?」
「第1王子殿下がとある伯爵令息に入れ込んで、学園で追いかけまわしていると」
「うぐっ」
「まさか、自分の息子がその対象だとは誰が思おうか」
「ぐはっ」
ば、バレてたぁ~~っ!
「そ、その。ごめんなさい」
「いや、明らかに王子に非があるだろう」
「だよねー」
俺、何も悪くないもんっ!
「それに、それを躱すにもこの婚約は役に立つな」
「そ、そうだねっ!」
「だが、お前としてはどうなんだ。本当に、婚約をしたいのか?将来は結婚し、お前が嫁に行くことになるのだ」
そう、だよね。ルカたんは一人っ子で、俺は孕み腹の男子だから、普通に考えて俺がお嫁に行くことになる。
「じゃぁ、その場合はアンズが婿を取って継ぐってこと?」
「そうなる。だが、それはそれでいいかもしれんな。嫁入り先の選定には苦労していた」
「そ、そうなの?」
「あぁ、あの子は天才肌で、そして魔法の才がある。下手なところに嫁がせればその力を悪用される可能性だってある」
「そ、そうか」
「その分、婿を取るならば、私の目が行き届く。それに、宰相閣下の元へならお前を嫁にやってもいいと思っている」
「父さんっ」
まさかのお許しがでるとは!いや、普通は高位貴族から打診があったら断れないのに、宰相閣下は俺が嫌ならば、ルカたんを説得するとまで言ってくれているからなぁ。
いや、ルカたんが嫌だなんて全く思わないけど。
「その、許されるのなら」
「では、この話、受けるぞ」
「ん、わかった」
俺が頷くと、早速父さんは書類に署名をし、そしてもう一度王城へ戻るのだという。
――――あぁ、俺。
ルカたんと婚約を交わしてしまったああぁぁぁぁぁ―――――っ!!
ぎゃふっ。
嬉しすぎて、顔から火がでそう~~~~っ!そして俺は顔を枕に撃沈させたのだった。
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