88人が本棚に入れています
本棚に追加
【side:ルカ】不思議な世界
リュリュを愛おし気にその腕の中に抱き、髪を梳いていたルカは、不意に何かの気配を察知し、視線を動かす。
『あっ』
『見つかったー』
『ルカたんだルカたん!いっけめーん!』
「お前たちは……っ」
その声の主を見て、ルカは思わず唖然として、そして内心歓喜した。
『妖精さん的な?』
『何かそんな感じ?』
『多分、そうかも、違うかも?』
何だかはっきりしないものの、3匹でわっちゃわっちゃと戯れている。
……その、顔は。
「小さい、リュリュ?」
そのものであった。
手のひらサイズで2頭身のデフォルメリュリュが、そこにはいた。しかも3匹も。
ルカは一瞬まとめて連れ去りたい衝動にかられながらも冷静にその妖精さん的な3匹を見やる。
髪と瞳の色はもちろんリュリュと同じ雪のような白い髪にアイスブルー。襟元にベージュのリボンを結んでおり、その中央にはそれぞれ色の違う牡丹のコサージュがついている。白いブラウスに濃琥珀のベスト、そしてダークブラウンのかぼちゃパンツの下からはダークグレーの靴下が覗いている。
ルカは恐らく、このスノーフレーク伯爵邸が、ルカの実家・アンティクワイティス公爵邸と同じく土禁だからだろうと推測する。
だからこそ、ルカも何となく過ごしやすい屋敷なのだ。また、リュリュにとってもアンティクワイティス公爵邸は慣れればきっと過ごしやすくなると思った。
『ぽーたんやで!』
そう、名乗った小さいリュリュは、ダークレッドの牡丹のコサージュを付けている。そう言えば、スノーフレーク伯爵家の家紋は雪牡丹だが、実家の家紋はダークレッドの牡丹だったと不意に思い出したルカは何だかちょっと嬉しかった。是非本物のリュリュにもダークレッドの牡丹のコサージュをしてもらいたいと思った。
『ぬんたん!』
次に名乗った小さいリュリュは、黄色の牡丹のコサージュを身に付けている。
『ヤチヨたんだよ?』
いや、待て。最後!最後の1匹!桃色牡丹コサージュの小さいリュリュ!しかし何だ、そのネーミングセンスは!
「や、ヤチヨたん?」
『せやで』
「ヤチヨ、とはどういう意味だ?」
『さぁ?』
こてんと首を傾げるヤチヨたんを見て、同じ仕草をするリュリュを脳裏に浮かべて……萌えた。
『リュリュたんが何となくゆーてたんや』
『永遠の謎やがな』
『ぽーたんもじゃき』
何だかいちいち口調が変わるのだが、全部リュリュなのだから別にいいやとルカは内心頷く。
『我ら』
『3匹合わせて』
『ちびリューリューず!』
「んなっ、ちび、リューリューず、だと!?」
何だ、そのユニット名は……!
「それも、リュリュの命名か」
『さようでー』
とぽーたん。
『みぎようは?』
『どない?』
そんなこと聞かれても。だが、顔が全部リュリュなのでそれだけでかわいい。そしてリュリュの命名と言うだけで尊すぎるほどに尊い。
「お前たちは、ここで何をしているんだ?」
『ルカたん見に来たー』
『ごっつイケメンやんけ』
『リュリュたんはルカたんにぞっこんなんやで』
と、ぽーたん、ぬんたん、ヤチヨたん。
「私に、ぞっこんか」
それはそれで最高だと、ルカは更に大切な宝物のようにリュリュを己の腕で包んだ。
『せやで』
『一人ふぁんくらぶやってる』
『でもヤチヨたんたちも入ってあげたから、一人3匹ふぁんくらぶになった』
「ファンクラブ、か。学内にそのようなものが存在していることは知っているが、リュリュはリュリュで別に私のファンクラブをやっていたということか?」
『みぎようでー』
それはつまり左様でと同じ意味なのだろうか。それなら、【うようで】じゃないのかと今更ながらに思い始めるルカ。でもそんなところもかわいらしい。
『孕み腹男子は複雑なんや』
と、ぽーたん。
「あぁ、そうだな。私の母もそうだから、何となくわかる。だからこそリュリュは私が守ってやらねばな」
『ぐっは』
『めちゃもえー』
『バリやばたん』
3匹の言葉の意味はよくわからなかったが、しかしかわいいことだけは分かったルカ。
『幸せにしたってな』
そう、ぽーたんがルカに告げる。
「……よかったの、だろうか」
ルカがふと漏らす。
このように、弱音を吐くなど今までなかったはずなのに。リュリュを前にすると、たまに弱気になってしまう。そしてそれを吐露したのは、リュリュにそっくりな妖精さん的な存在。
しかしルカは不思議とそう問うてしまったのだ。
「成り行きと言うか、チャンスだったから……それで勢いで……私が、リュリュの婚約者になってしまって……。それでリュリュが助かったのも事実だが」
『せやで、うちのリュリュたんを救った英雄やん』
「だが私は、リュリュに大事なことを隠して、婚約者になってしまったのだ」
『恋に秘密はつきもんやで』
そう、ぬんたんが答えてくれる。
『リュリュたんええこやから、安心し』
そうヤチヨたんにも励まされれば、ルカはどうしてか安心してしまう気がするのだ。
「……いつか、私の覚悟ができたら」
そう言うと、ちびリューリューずの3匹は応援するようにこくんと頷くのだった。
――――そして。
『そろそろ、アンズたんが帰ってくるかな』
『お出迎えー』
『したっけねー』
そう言うと、3匹はすっと姿を消した。恐らく玄関に向かったのだろうが。
「あれは、転移か?転移までするとは。妖精さん的な存在は、謎が多いな。だが、全部リュリュなのだから別にいいか……」
それに、ルカの抱えている秘密の相談にも乗ってくれた。相談するだけでも、少し気持ちが楽になった。
ルカは再び上機嫌ですやすやと寝入るリュリュを見る。離れたくない、手放したくない、そんな思いを込めつつ……抱き締めた。
最初のコメントを投稿しよう!