黒い影

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黒い影

 ああ、いるな。紗薙(さなぎ)はちらりとそれを目の端に留め、何事もなかったように授業に集中する。中学になって勉強はぐっと難しくなった。いつも在るものに意識を()くつもりは無い。とはいえ、小学校の頃よりも増えたように感じるそれはたまに人に重なって見え、人物がわからない時があるから注意は必要だ。  「怖い話しようぜ!」  またか。紗薙は無言で集まるクラスメイトから離れた。これもまた経験から来る自衛策。ほら、集まりだした。怖い話に(きょう)じる集団の周りを取り囲むように黒い影が揺れている。だんだん色を濃くしながら。  「その時白い影が(のぞ)いていたんだ」  今まさに白い影じゃないけど黒い影が覗き込んでいるけどな? 紗薙は内心でため息をついた。13年間観察していれば多少は知識も付く。あれはマイナスの感情が動く時に出やすいんだろうくらいは。  恐怖や疑い、怖い話が嫌いな人の(うら)めしい気持ちが野球ボールくらいに集まると、突然にゅっと人型になる。そして、ゆらゆらと揺れて留まる。3体に増えた。  「うっ……ごめんなさい、吐きそう!」  突然、話を聴いていた1人が口元を覆って飛び出していく。彼女の友人が数人慌てて後を追いかけていった。彼女、敏感なんだろな。あの黒い影に触れて具合が悪くなる人が一定数いる。やっぱり黒というだけあってあまり良いモノではないんだろうな。善と悪を色にするなら白と黒って感じなのと同じように。個人的には白い悪があってもいいんじゃないかって思っているけれど。  ぼんやりと考えていたら黒い影は話すのが解散になったからかふらりと教室から出ていった。本当、よくわからないな。
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