黒い影

2/3
前へ
/7ページ
次へ
 黒い影はわかりやすいところで怖い話がきっかけだけどそれだけではない。個人に付いている時もあるし、特定の場所にいたりするし、もしくは物に宿っている時もある。  「うわ」  紗薙(さなぎ)は思わず声を()らした。美術室の前が黄昏時(たそがれどき)のように暗く感じたからだ。怪訝(けげん)そうな視線を感じて(あせ)るも勝手に解釈(かいしゃく)してくれたようで。  「なになに、霊感ある系?」  「え?」  「ここ噂あるじゃん」  「あ、ああ、霊感があるわけじゃないけど、なんかぞわっとして驚いただけ」  「霊感ないやつが反応する方が怖いじゃん! マジに出そうだな」  「出ないでほしいね」  「お前、クールだな」  なんだか気に入られたらしい。怖い話をよくするクラスメイト、光村 風太(こうむら ふうた)。そういえば、その割に黒い影を連れているのは見たことがない。寄せ付けない何かがあるんだろうな。  「でも、気にならないか? 美術室の前に作品完成目前に事故死した生徒が立っているって」  「!」  紗薙は顔を強張(こわば)らせた。黒い影が美術室の前に合流して色を濃く、わずかに大きくなったのが見えたからだ。  「その話、ストップ!」  思わず強く(さえぎ)った紗薙に目を丸くする風太。紗薙は誤魔化(ごまか)すように無理やり笑みを浮かべて肩を(すく)めた。  「ほら、よく言うだろ? 噂のある所で怖い話をするなって。あまり、得意じゃないんだ」  「あー、そうだな。ごめん、つい盛り上がっちゃって」  「こっちこそ、ごめん」  本当に根が良いやつなんだろう。謝り合戦になりそうだった2人を急かすようにチャイムが鳴って慌てて美術室に駆け込んだ。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加