黒い影

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 風太と仲良くなって紗薙は学校生活が楽しくなった。その裏で今まで気にしなかった黒い影が気になるようになっていた。怖い(うわさ)がある場所に影が集まっていることに気付いたから。  それはどんどん色を真っ黒に変えて、大きくなっている。近寄った人が具合を悪くしたり、そばに行きたくないという人が増えたりすることで、ますます信ぴょう性が増していくようだった。そこまで行けばさすがの紗薙も嫌な感じがして警戒もする。  「ひっ」  もう少しで夏休みという時期になった頃、美術室に近寄った紗薙は思わず悲鳴をあげそうになった。鏡を見なくても血の気が引いているのがわかる。  美術室の前に大きな人型が膝を抱えて座っていた。それは、紗薙が見ていることに気付いて、にやり と笑ったのだ。真っ黒の顔が真っ赤な色を見せて割れ満面の笑みをこちらに向けた。  紗薙は全力で逃げた。今まで当たり前に見ていたモノだけど、こんな風に目が合って、自分を認識されたと感じたことはなかった。()い上がってくる寒気を振り切るように廊下を全力で走って逃げた。  あれは、明確な悪意がある。ただそこに在ったモノとは明らかに違う漆黒(しっこく)の影。紗薙は脳裏によぎった考えにゾッとした。  もし、あの漆黒の人型が最近あちらこちらで話されている怖い話の分、増えているとしたら? それが誰かの目論見(もくろみ)あってのものだとしたら?
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