1人が本棚に入れています
本棚に追加
闇招き
委員会の先輩が言っていた。今まで学校でここまで怖い話が流行ったことはないと。七不思議はない学校だったと。今、囁かれている怖い話は意図したように七つ。誰かが扇動している。一体誰が、何のために?
紗薙は恐怖を押さえつけて周囲を窺った。予想が当たっているならばその人間は自分と同じ学年にいる。日に日に切羽詰まった様子になっていく紗薙を心配して風太が声をかけてきた。
「なんか悩んでいるなら、聴くけど」
「いや、大丈夫……あ」
怖い話をしていた風太は情報源を知っている可能性がある。そのことに気付いて紗薙は少し迷い、真剣な顔で風太を見た。
「ヘンなこと聞くけど、学校の怖い話はどうやって知った?」
「へ?」
風太はきょとんした顔をしたが紗薙の真剣な顔を見て真顔になる。記憶を辿るように黙り、しばらくして口を開いた。
「隣のクラスの碇 望。俺が怖い話好きなのを聴いたって……」
「どんな人?」
「普通の女子。髪は黒でショートボブ。そう、目の下に縦に並ぶ2つのほくろがあった」
「ありがとう」
特徴を反芻して勢い良く立ち上がった紗薙を訳の分からないまでも心配そうに見上げてくる風太に笑った。
「確認したいことがあるんだ。恋愛じゃないからな」
「……俺の助けはいるか?」
茶化そうと思ったのに本気で心配していることを感じて紗薙は苦笑する。黒い影が視えることをうまく説明できる気がしない。だから、言えるとするなら
「僕が真っ暗に凹んでいたら引っ張り出して」
黙って頷いてくれた風太に背中を押される心地で隣のクラスに近寄った。休み時間はどこも同じような雰囲気で雑談の声が廊下にも響いている。
「!」
紗薙は見てしまった。教室にくっきりと真っ黒の影が伸びている。曇り空で、ましてや蛍光灯の光くらいじゃ決して生まれないはずの漆黒の影。どうやったらあんな色に? 影を凝視していると影が動いた。いや、影の本体が動いたのだ。つられて顔を上げてぶわっと冷や汗が浮く。
黒髪ショートボブ、2つのほくろ。碇 望がこちらを見て微笑んでいた。明らかに紗薙が異様な影に気付いていることを確信した顔で。
『放課後、屋上で』
口の動きがそう言った。紗薙は黙って頷いて踵を返す。まずは今この場から離れたかったからだ。体が震えている。あれは、なんだ? あれは本当に人なのか。貧血を起こした紗薙は結局その日、放課後まで保健室で休んだ。
最初のコメントを投稿しよう!