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様子を見に来た風太を家から迎えが来ると言って見送った。本当は恐怖と心細さから一緒にいてくれと言いたかったけど。
「行くぞ」
自分を鼓舞するように声に出して紗薙は屋上に足を向ける。重たい扉を押し開くとムッと熱い空気が吹きつけてきた。
「いらっしゃい、蔦谷君」
落ち着いた声が迎える。真っ黒い影が屋上に伸びていた。相対すれば影だけじゃなく本体も黒い光をまとっているように感じて身が竦む。その様子を見て望が笑った。
「やっぱり、視えるんだ。私、真っ黒?」
初めて会った黒い影が視える人間。それは、闇をまとっている。自分とは違う。そう確信して紗薙は顔を歪めた。
「そっか、そんなに闇なんだね。うれしいなぁ……」
「どう、して……」
声が擦れる。望は幼い子どもに聴かせるように優しく口を開いた。怯えている紗薙を気遣ってか距離は詰めないまま。
「私、人間が嫌いなの。親に疎まれ、保育園の時からいじめられ、外で遊べば気持ち悪いおじさんに手を出され。私、ちゃんと悪い人ばかりじゃないって頑張ったのよ? でもね」
すっと翳る表情。
「無理だった。どうして私ばかり? そう思わずにいられなかった。だんだんムカついてきたわ。誰も助けてくれないのに、どうして私、良い子でいようとしているんだろう? おかしいよね」
ぶわっと闇が広がっていく。紗薙は息苦しさに膝を付いた。悲しみ、怒り、苦しみ、憎しみ、絶望。すべてが入り混じった黒いエネルギー。望は語る。
「親に愛されないのも、いじめられるのも、男に狙われるのも私に原因がある? 助けを望めば害する者しか寄ってこない。何度願っても、願っても私は否定される! 害される! 踏みにじられる! そして、私は黒く染まっていった。黒い光が内側から溢れるようになった」
望の目から黒い涙が流れ始め顔に線を刻む。異様な人とは思えない面。屋上が闇に染まっていく。
「みんな、知ればいいのに」
「?」
「私の抱えた真っ暗な心。黒い影を持たない人間は少ないの。だったら、それを強くしてあげたら? 学校に闇が育つようにしたら? うまくすれば私を害する人間は壊れてくれるんじゃない? 怖い話、好きな人多いから試してみた。そうしたら、育ってくれてる。黒い影が集まって、真っ黒な闇になって、あと少しで動き出す‼」
狂ったように叫んでいた望が、ふと我に返ったように穏やかな顔に戻る。屋上の床に倒れ込んだ紗薙を見て哀しそうに微笑った。
「私は闇を招いたの。でも、視える人に会うなんて……思ってもみなかった。黒い影をずっと見ているのに闇に落ちない人がいるなんて……ムカつくわ」
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