1人が本棚に入れています
本棚に追加
「紗薙‼」
ああ、闇に呑まれる。そう思った瞬間、雷でも落ちたように闇が弾け飛ぶのを感じた。開けた視界には屋上の手すりがあって、今にも落ちそうな体には温かい腕が強く巻き付いていた。
「風、太……?」
「バカ! なんで飛び降りようとしてるんだよ!?」
紗薙はゆるく首を振る。そんなことしていない。そう導かれただけで。世界を憎みそうになった。すべてを投げ出したくなった。生きている意味が消えた心地に囚われて。それが、あの黒い影の集大成、闇。
説明は難しい。そう思いながらも風太が来てくれたことに心から安堵する。安心したらどっと疲れも出て意識を保っていられない。
「紗薙!?」
必死で呼ぶ声が遠のく。風太がいるから大丈夫。きっと、風太は闇に囚われない。そんな確信。
紗薙は丸1日眠り続け、その間、救急車で運ばれたり、親がパニックを起こしていたり大変だったらしい。風太も可能な限り付いていてくれたと聞いた。
あの闇に影響を受けたのは紗薙だけではなかったようで、倒れる生徒が相次いだという。ものすごく息苦しく、わけがわからなくなったという症状が多かったことを聞いたのでちゃっかり便乗して話を落ち着けた。
自殺するつもりは無く、息苦しさから外を目指して屋上で危ないことになったという形。とりあえず誤魔化せた。
あの日タイミング良く現れた風太は様子のおかしかった紗薙が気になって家に帰るのを見届けてから帰ろうと学校に戻ってきたのだと教えてくれた。いざ探せば姿か見えず、倒れる生徒も連発し、半ばパニックで紗薙を探して、結果間に合った。本当に感謝しかない。
望は……いなくなったらしい。動きを知られるのを避けるために行動を変えた。そんな気がしてならない。闇は、そんなに簡単に消えるわけがない。
紗薙は黒い影を見る。闇を知る。それは恐ろしいものだと知ったから、世界は少し怖くなった。でも、今、自分には友人がいる。闇を払える強い心の持ち主が。誰もがそんな人と共に在ってほしい。出会ってほしい。そう、願ってやまない。
最初のコメントを投稿しよう!