届きすぎです!この思い!

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「届きますよーに!」  大丈夫、しっかりとお祈りしたし絶対届く!自分自身にそんな自己暗示のようなことをしながら、私は勢いよく目的のページをクリックし、ゆっくりとネットワークから伝達される情報へと変遷しているタブレットの画面を恐る恐る覗く。 「!ウソ!当たっ·····た?」  前情報では、倍率100倍とか500倍とか何だったら過激なファンからの推測では何千倍なんて煽られていた推しのラストコンサートのチケットがご用意されていると間違いなく、書かれていた。  唐突だが、私は二次元のキャラクターが好きだ。イケメンもシブおじもショタみがあるのももちろん、妖艶なお姉様も健気な地味子も愛らしいからセクシーまでとにかく、よっぽど人道に反しないキャラクターであれば大抵箱推しで愛し、男同士の恋愛も女同士の恋愛ももちろん、異性間の恋愛だって美味しくいただく。  そんな私が、三次元で唯一推しているのが今回のコンサートでセンターを務める彼だ。  先の説明からどう考えてもオタクだろお前!ってヤツがなぜ推すのか?ただのイケメンへの節操無しなヤツだろ?とか訳知り顔で言われるかもしれないが、それは全く違う。  私が三次元で推しとして応援しているのは、現状後にも先にも彼一人だ。  じゃあなんだ、ガチ恋勢か?と聞かれるとそれは、即答で「NO!」と言える。  ただ、彼は他の人と違っていた。人柄はお人好し、でも自分に厳しくドラマからバラエティまで全力で取り組み、ストイックにファンのことを考えてくれる人なのだ。  え?そんなの、ファンの主観だろ?って?  もちろん、それは否定出来ない部分も大いにあると思う。  それじゃあ、見た目で判別してるってことでしょ?と早々と結論付けるのは待って欲しい。  実はこれはとっておきの話しで、墓場まで持って行くつもりの内容だけれど、彼に一度だけ会ったことがある。  その時の私ときたら、色々なことが上手くいかなくて大層落ち込んでいた。いや、落ち込んでいたなんてものじゃない。  彼に出逢っていなければ、きっとどこかに身投げしていたんじゃないか、などと身内には心配されていたような精神状態だった。  それをあの時たまたま出逢った私を励ましてくれた彼の心根と振る舞いを、ある意味感謝を通り越して崇拝まで行ってしまった。これが正解なのかもしれない。  だから、彼が引退をすると決めた時はショックで冗談でなく、本当に数日熱を出して寝込んだものだ。  ショックから何とか立ち直り、ラストコンサートはちゃんと私を救ってくれた彼への感謝を届けたい!その一念を合法的に安全な頼れるものには、願掛けをして抽選に申し込んだのだ。  つまり、今回はその結果無事に参加できることになった。 「はずなのだが·····?」  なぜだろう。私は感謝を伝えたく今回特別に事務所が用意したらしい手紙やプレゼントなどを本人に直接届けてもらえるコンサート参加者用のポストへつい書きすぎて分厚くなった封筒を入れ、コンサートでは数多のファンたちと共に、気合いを入れたメイクがグシャグシャになるくらい感涙し、満足して帰ろうとしたはず。  なのに、なんだこの状況。 「なーにが、はずなのだが?だよ。小さかったからって昔馴染みの顔忘れてるとか有り得る??」  なんと推しは、少女漫画でよくある幼なじみだった!·····なんて。 「いや、それはないですね」  なぜなら幼少期は、箱入り娘のごとく家でしか生活していなかった。だって、近所が遠すぎて保育園?幼稚園?なんですかって絶望的な地域で、人の多いところに住み出したのは中学生以降だ。  だから、そんな嘘には騙されない!心の中では、偉そうに言えないことを推しに堂々と言い返してみた。 「·····っち!流石に騙されねーか。ま、いいや、とりあえず、左手出して?」  え、私は推しに簡単に騙されるチョロだと思われてたの?と軽くショックを受けながら無意識に言われた通り左手を預けた。  すると薬指には、呼吸が止まりそうなほど見たこともない宝石の美しい輝きと、銀の輪の輝きが収まっていた。 「え?これ·····」 「どうよ、お姫様。もう新居も新しい仕事も決めてきた。前に会った時に約束しただろ。『アンタがもう一回誰かと付き合おうって思えなかったら、迎えに行ってやるよ』·····って」  何、そのファンとして頷いたらアカンやつ!と思わず使ったこともない関西弁が脳内を踊る。  もちろん、その約束とやらに身に覚えもない·····が、あの推しのファンになった日。実はファンになった瞬間は覚えているんだけど、その前後が一部記憶から抜け落ちていたことを思い出した。 「で、約束は守ってやろうと今日マイクを置いて来たんだけど?その辺の喫茶店でいいから移動するか」 「は?喫茶店で何を?」 「決まってるだろ。婚姻届書くんだよ」  嘘でしょ·····推しへの思い、届く方向間違ってます。多分、コンサートチケットを用意してくれたはずの神様か何様か分からない願掛けした何かに、届くはずのない言葉として消えていったのであった。  皆様、届けたい思いは時に思わぬ効果をもたらすので、注意してください。喫茶店で向かい合って婚姻届を書かされながらイマジナリーファンたちへと注意喚起をする私の明日は、どうなるんだろう。
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