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私の様子には気づかないで、未宇は黒く長い髪の先を手先でいじりながら何かを思いだしているようだった。
そういえばこの髪はウィッグなんだっけ。
再会してすぐ、抗がん剤治療で落武者状態だと打ち明けてくれた。
「逆に今しかできないオシャレするつもり。これは学校用。お出かけ用も今度見せるね」
自然な様子で話す未宇がまぶしかった。
人の目を気にするのも忘れて、すごいと思いきり手を叩いてしまうくらいに。
髪が抜けるって、考えただけでつらいのに。
私が未宇に手をさしのべるなんて考えていたのが恥ずかしい。
私の助けなんかなくたって、未宇は病気や治療、その副作用と向き合えていたのに。
今も油断すると足場がぐらつく私とは違って――。
「正直……」
未宇の呟きに、頭のなかからどうにか『暑い』を押しのけて、思考を現実に戻す
審判が下されるような気持ちだ。
でも聞いたのは自分なんだから、これくらい向き合えなくてどうする、と背筋を伸ばした。
「最初はあんまり気にしてなかった、かな。携帯見る余裕ない日も多かったし」
「うん」
「しばらくしたら届いてるの見てイラついたかも。こっちは痛い思いして、ずっと辛くてしんどいのにって」
「うん……」
「でも、いつからだろう。だんだん届くのに安心してた。今日も来たって」
「…………本当?」
伸ばしたはずの背筋がだんだんと丸まる途中でしぼり出した相槌に、未宇が力強くうなずいた。
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